2012 Fiscal Year Annual Research Report
共有結合性を有する不規則凝縮系の原子ダイナミクスへの超高圧環境の影響
Project/Area Number |
23340106
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
下條 冬樹 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (60253027)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
千葉 文野 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (20424195)
安仁屋 勝 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (30221724)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 液体 / 構造不規則系 / 高圧環境 / 共有結合 / ダイナミクス / 第一原理計算 / 分子動力学法 |
Research Abstract |
理論的手法として第一原理分動力学法を用いた計算機シミュレーションを採用し、実験的手法として主にX 線散乱を用いることにより、平成24年度は以下の通り研究を遂行した。 1) Ge-Te系混合液体の部分構造と拡散機構の圧力依存性:まず常圧での基礎的物性を把握するために、液体Ge-Te混合系のX線小角および非弾性X線散乱測定を行った。比較的高温から過冷却状態まで温度を変えて測定を行ったところ小角散乱強度の増大が観測され、液体-液体相転移を起こすことが示唆された。 2) Se-Te系混合液体の部分構造と拡散機構の圧力依存性:液体Se30Te70に対して、第一原理分子動力学計算を行い拡散係数の圧力依存性を求め、動的非対称の有無を検討した。常圧から高圧(1GPa程度)まで、セレンの拡散係数がテルルの拡散係数より約10%程大きいことが分かった。質量の効果を見るためにセレンとテルルの質量を入れ替えて計算したところ、テルルの拡散はほとんど影響を受けないのに対し、高圧においてセレンの拡散係数が上昇するという興味深い結果を得た。これはセレンとテルルの拡散機構に違いがあることを示しており、今後より詳細に探究していく予定である。 3) 液体SiO2 の部分構造と拡散機構の圧力依存性:液体SiO2は50 GPa程度の高圧条件においてシリコンの拡散係数が酸素よりも大きくなるという動的非対称性を示す。今年度は、Nuged-elastic-band法により拡散機構の定量的評価を行った。高圧液体の分子動力学計算から得られた配置を元に構造最適化を行うことにより液体の固有構造を求め、固有構造間を系が移動する際の拡散経路と移動障壁を得た。拡散経路においてはシリコンのみが大きく移動していること、障壁の値から見積もられる状態間の遷移確率は高圧液体中での拡散の大きさと矛盾しないことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、高圧実験と第一原理分子動力学法に基づく理論計算の連携を通して、高温・高圧下にある種々の共有結合性液体中の動的非対称性を解明することにある。特に、液体SiO2は地球科学的に古くから広く興味の持たれる物質であり、ソフトマターと比べこのような単純な系で動的非対称性の出現条件等を解明できれば、学術的に重要な基礎研究となるため、本研究において最重要のテーマの一つとして取り組んでいる。今年度の研究において、シリコンのみが大きく移動する拡散経路の同定と、拡散障壁の定量的評価をすることができた。高圧下にある共有性液体中での動的非対称性を第一原理的に解明した初めての研究成果であり、インパクトの高い雑誌へ投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
SiO2よりも複雑なシリケート系液体の部分構造と拡散機構の圧力依存性を第一原理分子動力学法で調べる。MgSiO3等のシリケート系では、低圧において既に配位数の不均一性があり、動的非対称性がどのように現れるのか非常に興味深い。また、液体AgIなどの液体貴金属・ハロゲン混合系では、常圧下において、貴金属の拡散がハロゲンに比べて圧倒的に大きく、動的非対称性が常圧から見られる。この系は、貴金属元素間と異種元素間の距離がほぼ同じであり極めて特異な部分構造を示す。動的非対称性は、この部分構造を与える貴金属元素間相互作用によって生じていると考えられる。液体AgIの第一原理計算を行い、部分構造と元素間相互作用の圧力依存性を調べ、動的非対称性の圧力変化を議論する。実験的には、Ge-Te系の動的非対称性の観測を目標とする。
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