2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23340111
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
熊井 玲児 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (00356924)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 有機強誘電体 / 軌道放射光 / X線回折 / 結晶構造解析 / 高圧下構造解析 |
Research Abstract |
今年度得られた成果のうち、一つはイミダゾール骨格を有する新規の水素結合系有機強誘電体・反強誘電体の構造を明らかにし、これらの分極整列、分極発現機構を構造的に明らかにしたことが挙げられる。この系では従来の酸素-窒素型、あるいは酸素-酸素型の水素結合系誘電体に比べ、キュリー温度が高く、また熱的に安定なことが予想され、応用面からの期待もあるが、従来の水素結合系誘電体では見られなかった90度ドメインの構造や、反強誘電体特有の二重履歴型の分極反転ループが観測されるなど、水素結合系強誘電体の新たな展開が期待される系である。 また、二つめの成果として、電荷移動型有機強誘電体TTF-CAの電場下における回折実験により、分極発現機構を明らかにしたことが挙げられる。この物質は発見から30年以上たつ物質であり、低温におけるイオン性相が強誘電体であることは知られていたものの、分極の大きさなどの誘電体としての特性は知られていなかった。近年になって、従来のイオン分極に基づく機構に比べてはるかに大きな分極の値が期待されることが予測されており、実際に分極の測定を行ったところ、理論予測通りに大きな(7μC/cm2)分極が観測された。この分極発現機構が電子型強誘電に基づくものであることを明らかにするために、放射光を用いた電場下回折実験を行い、理論予測通りにイオン分極の向きとは逆向きに分極は発生していることを証明した。また、同時に、電場下ではほぼ100%の分極ドメインが整列出来ていることも明らかにできた。電場下低温における分極ドメインの整列と、放射光回折を組み合わせた成果といえよう。 さらに、外場として圧力を用いた実験を行うために、従来のBeを用いた高圧セルよりもバックグラウンドが小さく、より精密な実験を可能とするためのエンジニアリングプラスチックを材質として用いた高圧セルの開発を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当所の予定通り、放射光X線を用いて、電場あるいは圧力、温度など外場下での結晶構造、構造変調についての実験を進めている。今年度は、新規強誘電体の構造解析をいくつか行った他、特に電場における強誘電ドメインの整列に関する実験を行い、これにより電荷移動型強誘電体TTF-CAにおける分極発現機構が、電子型強誘電であることを明らかにするとともに、従来型のイオン分極の機構よりも一桁以上大きくしかも分極の方向が逆向きであることを報告できた。これは放射光を用いた実験ならではの成果であり、本課題における研究の目標としてよく合致しているといえる。 一方、圧力を用いた実験では、バックグラウンド低減型圧力セルの基本データ(温度、圧力のキャリブレーション)の整備を進めている。セルの材質の問題により、熱伝導が悪いなどの問題などがあり、当所は試料の温度が外部の温度と一致しない問題があったが、一部の材質の見直しを行い解決できる目処がたった。今後はこの高圧セルを用いた基礎データの補完を行うとともに、圧力下における精密構造解析や、圧力による構造の変調の観測を行うことを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの実験成果を元に、引き続き、放射光を用いた外場下での回折実験を通じて有機強誘電体の分極発現機構を明らかにする研究を進める。特に、最近報告したイミダゾール骨格を有する水素結合系誘電体では、置換基の違いにより、反強誘電体や90度ドメインなど、これまでの系にはない特色のある誘電体が得られており、これらを用いて、電場下におけるドメイン整列や、分極反転などの観測を進める予定である。90度ドメイン構造では、水素結合方向と分極の方向が45度傾いているため、従来の水素結合方向に平行な分極を有する物質とは分極の動力学が異なる可能性が期待され、興味深い。また、反強誘電を示す物質では、これまでの有機反強誘電体でははじめて停電場による二重履歴の観測に成功している。この物質における、反強誘電的な分極整列から強誘電的な分極整列への電場による反転を構造解析的な手法により観測することを予定している。 また、高圧下における回折実験では、バックグラウンド低減型高圧セルの改良を行いつつ、このセルを用いた実験を引き続き進め、特に電荷移動型錯体における圧力誘起強誘電相や、量子強誘電相における構造を明らかにすることを計画している。 その他、新規の誘電体の開発も積極的に進め、それらの分極発現機構を構造的に明らかにすることも平行して行う予定である。
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