2012 Fiscal Year Annual Research Report
フェムト秒極端紫外光源による生体モデル分子系におけるプロトン移動のダイナミクス
Project/Area Number |
23340116
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
関川 太郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90282607)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 高次高調波 / 時間分解光電子分光 / 共役二重結合系 / 円錐交差 |
Research Abstract |
今年度は,超音速分子線発生装置の作成を目標とした。しかしながら、他予算を利用して昨年度発注したEven-Lavieバルブの納品が遅れ、年度末になりようやく超音速分子線発生装置が完成した。そのため、本年度は、室温における1,3-ブタジエンの緩和ダイナミクスの観測に挑戦した。1,3-ブタジエンは最小の二重結合共役系であり、生体系において光アンテナを構成するより長い共役系でのエネルギー伝達を調べるためのモデル分子である。1,3-ブタジエンのS1、S2状態は近接した励起エネルギーをもつが、S1は一光子遷移禁制である。そのため、S2に励起された後、50fs以下の寿命で円錐交差を経てS1、更にはS0へ緩和すると言われている。しかし、光励起後、分子は解離することも知られており、S0状態へ戻るのか、そのまま解離するのかどうかは、よく知られていなかった。チタンサファイアレーザーの19次高調波を遅延時間補償分光器により切り出し、プローブ光として用いた。400 nm光の二光子吸収によりS1状態へ励起した。二つのパルス間の遅延時間を変えながら光電子スペクトルを計測した。その結果、200fs後には、一度、基底状態へ戻ることが初めて明らかになった。更に詳しくみると、被占有最高分子軌道のスペクトル内でも、束縛エネルギーが低いと20fsで戻ることが分かった。これは、S1からの内部転換に伴い、高い振動エネルギー準位にまず緩和していることを示している。深い準位が100 fsで戻ることから、基底状態での熱平衡化に80fs程度かかることがわかる。これまで、イオン化による研究は行われていたが、イオン化では緩和途中の電子状態が分からない。単一次数高調波と光電子分光法の組み合わせにより電子状態を観測できるようになったことは、画期的である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子線発生装置の改造に予定した時間がかっている。しかしながら、その間、1,3-ブタジエンにおける100fs以下の緩和過程を時間分解することに成功しており、遅れを埋め合わせる成果と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
予期せず、興味深い現象を発見した。そんため、今年度は、まず、1,3-ブタジエンの緩和ダイナミクスの解明に注力する。その後、分子線発生装置を立ち上げ、サリチリデンアニリンの時間分解光電子分光に挑戦する。
|
Research Products
(14 results)