2012 Fiscal Year Annual Research Report
数値モデルを用いた超大陸サイクルとマントル対流の熱的・力学的相互作用の解明
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23340132
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
吉田 晶樹 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 主任研究員 (00371716)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | マントル対流 / 数値シミュレーション / 超大陸 / 大陸リソスフェア / クラトン / 変動帯 / 超大陸サイクル / 粘性率 |
Research Abstract |
(1)昨年度までに開発した三次元部分球殻内マントル対流数値シミュレーションプログラムを用いて、超大陸の分裂から始まる大陸移動を考慮した数値シミュレーションを実施した。モデルの初期状態として、“超大陸”は高粘性率(周囲のマントルとの粘性比は最大で1000)の4つの大陸片(クラトニック・リソスフェア)の集合体とし、それぞれの大陸片の縁辺は低粘性帯(実際の地球では太古代クラトン縁辺の原生代造山帯、あるいは変動帯に相当)で囲まれていると仮定する。シミュレーションの結果、大陸縁辺での低粘性帯の存在が、地質学的時間スケール(20億年以上)にわたる大陸の安定性に寄与することが分かった。特に、大陸の安定性には、大陸そのものの高粘性の性質よりも、大陸縁辺での低粘性帯の存在の方が重要であることが系統的なシミュレーションから明らかになった。 (2)自在に変形する大陸リソスフェアを考慮した三次元全球殻マントル対流モデルを世界に先駆けて構築し、数値シミュレーションを実施した。シミュレーションでは、大陸の粘性率、大陸縁辺の変動帯及び超大陸内の縫合帯(スーチャーゾーン)の粘性率、海洋リソスフェアの降伏応力などのパラメータを系統的に変化させた。その結果、限定されたパラメータの条件下では、超大陸が分裂し、分裂したそれぞれの大陸片が、数億年で再び集合して次の超大陸を形成するという“超大陸サイクル”を復元することが出来た。超大陸の形成には、超大陸の外海が閉じる“外向”と、大陸が分裂して一旦開いた海が再び閉じる“内向”の二つのパターンが複雑に絡み合うことが分かった。また、超大陸サイクルが実現される条件下での大陸下マントルの平均温度異常(マントルの各深さにおける全球水平平均温度との温度差の平均)を見積もった。その結果、移動する大陸下の深部マントルの平均温度異常はたかだか±10℃であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の現在までの達成度は、ほぼ100%であると言ってよい。特に今年度は、地球表層に大陸とプレートを考慮した三次元全球殻内マントル対流数値シミュレーションプログラムの開発が終了し、今後、超大陸サイクルとマントル対流との熱的・力学的相互作用の解明に必要なシミュレーションを実施する準備が整った。 今年度に得られたシミュレーション結果は、超大陸が分裂し、分裂した大陸片が移動し、最終的に一つの超大陸に集まる過程(超大陸サイクル)を復元しており、実際の地球に近い複雑な大陸移動のパターンが自発的に実現している。超大陸サイクルを再現した数値シミュレーションは世界で初めての成果である。また、近年の三次元地震波速度構造(地震波トモグラフィー)モデルでイメージされるように、マントル深部の対流パターンは必ずしも表層のプレートの配置や大陸の分布に対応しておらず、実際の地球マントルで見られる状況に近い。この結果は、大陸の移動が、その下のマントルの対流運動だけでなく、大陸プレート周辺の海洋プレートを含む地球上の全プレートが複雑に相互に作用しながら運動するというメカニズムで説明出来ることを示したことになり、研究計画を立案した当初では予想をしなかった非常に重要な成果が得られたことになる。また、この成果は、1910年代のアルフレッド・ウェゲナーによる大陸移動説の提唱以来ほぼ100年を経過して、大陸移動の原動力について明確な解答を与えるものである。これまで原因を定量的に説明することができていなかった大陸移動やプレートテクトニクスのような大規模地質学的現象をシミュレーションモデルで再現したことは、今後、地球の動的進化過程の解明にも重要な貢献ができるものと自負する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究により、地球マントルの内部構造の進化に多大な影響を及ぼしてきたと考えられる地球表層運動のメカニズム、及び、地球表層運動とマントル対流との熱的・力学的相互作用の歴史の解明には、数値シミュレーションが有効な手段であることが証明された。近年の海洋研究開発機構における地質学的・岩石学的研究で、太古代の海洋プレートの沈み込みによって小さな大陸が形成され、その大陸は地球の歴史を通じて離合集散を繰り返しながら現在のサイズまでに成長したという仮説が立てられた。今後は、この仮説を地球物理学・地球内部ダイナミクスの観点から検証し、地球の大陸進化に対する理解を深めるため、大陸地殻の形成と成長を考慮した三次元全球マントル対流シミュレーションを行うための数値モデルの開発を実施する予定である。 これまでの数値モデルでは、大陸の体積は地球史を通して一定と仮定してきた。今後は、上記の大陸地殻進化モデルを参考に、物質分化を考慮した数値シミュレーションプログラムを開発する。このモデルでは、“標準”マントルと組成的に異なる物質を、簡単に、「玄武岩質海洋地殻」、「安山岩質大陸地殻」、「融解残渣(反大陸)」の三つの物質に分類し、それぞれの物質が特有の密度・粘性率を持つとする。また、マントルの温度がある温度を超えたときに、岩石が部分融解によって化学分化が起こると仮定する。マントル対流の激しさを表す無次元量であるレイリー数は、実際の地球マントルの値を与え、マントルの粘性率の温度・圧力依存性、及び粘塑性レオロジーを考慮する。大陸地殻進化モデルの検証については、(1)地球の時間スケールで現在の地球に存在するような大陸地殻の量が生成されるか?(2)大陸地殻は一定の時間間隔で成長するか?その場合、超大陸サイクルの時間間隔との関係はどうか?の二点に特に注視しながら議論を進める計画である。
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