2011 Fiscal Year Annual Research Report
太陽極大期の高エネルギー粒子の降込みが極域中間圏大気に及ぼす影響の観測的研究
Project/Area Number |
23340145
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水野 亮 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 教授 (80212231)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長濱 智生 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 准教授 (70377779)
前澤 裕之 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00377780)
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Keywords | 中間圏大気 / 極域 / リモートセンシング / 太陽活動 / 環境変動 |
Research Abstract |
本研究は、太陽活動に伴う高エネルギー粒子の降り込みによって引き起こされるイオン‐分子反応が地球の中層大気、特に中間圏の微量分子組成に与える影響を、南極昭和基地に設置した地上ミリ波分光計を用いた連続観測に基づき定量的に評価することを目的としている。初年度にあたるH23年度は、同年1月に設置したミリ波分光計による定常観測体制を確立することを第一目標として研究を進めた。途中、電波強度校正用液体窒素ガラスデュワーの破損、超伝導素子を冷却するための極低温冷凍機の不具合等のトラブルが発生し、現地での応急対応で観測を継続することはできたが、当初計画どおりの連続観測を行うことは困難となった。観測装置自体は受信機雑音温度80K(DSB)程度と所期の目標値を達成し、100mK程度のオゾンの振動-回転スペクトルを高いS/N比で取得することができた。 破損したガラスデュワーは53次南極観測隊により交換品を輸送し、H24年1月に交換した後は連続観測を開始することができた。ただし、極低温冷凍機に関しては専門の知識と技術を有する技術者でしか対応できなかったため、研究費を繰り越しH24年11月出発の54次南極観測隊同行者として技術者を派遣し対応にあたり、H25年1月には作業が完了しその後は順調に観測は進んでいる。 太陽活動に伴う高エネルギー粒子の降りこみによる影響は、過去の太陽陽子イベントでの観測例があり、数日のタイムスケールで顕著な増加が検出されているNO2分子の線スペクトルで調べようとしたが、H24年1月までの段階で検出限界を超える信号は検出されなかった。H24年1月末の大規模な太陽陽子イベント発生時に、観測対象をNO2からNOに変更したところ、イベントに起因すると考えられるNOの増加を検出することができた。その後はNOの観測を続け、太陽活動との関係をモニタ―している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度の期間中は先に述べたようなガラスデュワーの破損と冷凍機の不具合があった。ガラスデュワーの代替品として、発泡スチロールの断熱容器を用いたが断熱性能が不十分なため液体窒素の蒸発量が製造量を上回り、当初目標としていた連続的な観測を行うことができなかった。ただしH24年1月のガラスデュワーを交換して以降は連続観測を行っている。 観測時間としては当初目標の6-7割程度しか観測はできなかったが、1年間の運用を通して昭和基地内の観測環境の種々の問題点を把握し対策を講じることができた。たとえば観測開始初期に観測棟の空調が暴走し室温が35℃近くまで上昇したことがあった。日本側と連絡を取り合い、原因を追究したところ、制御ユニットのシーケンス設定で誤りがあったことが分かり、本来あるべき設定に変更したところ暴走はなくなった。また、現地の天候に合わせ、降雪や降霜時には観測窓に蓋をかぶせ、雪や霜から窓材の発泡スチロールを保護する必要があるが、どういった気象状況のときに降雪や霜が降りる可能性が高くなるかを経験的に把握することができ、おおまかな予測をたてることが可能となった。他にも観測プログラムのバグ出し、日本へ転送するためのデータの圧縮プログラムや自動データ転送プログラムの開発といった観測支援ソフトウェアの開発、昭和基地の状態を迅速かつ正確に把握するためのインターネットを用いたステータスモニターや観測記録の入力、Webカメラを用いた装置の監視などのモニター群の整備も行った。 種々のトラブルが発生し、実際の観測時間は当初計画を下回ったが、これらのトラブルに適確に対応し、更なる改良を加えることにより観測装置としての完成度は想定以上に高くなったと考えられる。H23年度の第一目標である「定常観測体制を確立」に対しては90%程度が達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昭和基地には物資が年に一度しか輸送ができないことに対する認識が甘かった。電子部品に関しては一通り予備品を持って行ったが、ガラスデュワーは予備品を持って行かなかった。破損する可能性は十分に考えられるが見落としていた。故障および破損する可能性の高い部品の再吟味を行い、予算の許す範囲内で可能な限りの予備品を昭和基地に送り、連続観測に支障が生じないように留意したい。 1月の太陽イベント発生時に対象分子をNO2からNOに切り替え、NOが検出できたことは大きな収穫であった。最低今後1年間はNOとオゾンの観測を継続し、イベントに起因する数日レベルの短期変動だけでなく、極渦に伴う大気輸送に起因するNOやオゾンの長期的な変化の有無を調べていきたい。周回軌道をまわる衛星観測に比べ、地上観測の利点は同一点における鉛直分布の変化を連続的に調べられることにある。現地の越冬隊員に対する渡航前訓練を十分に行い、現地で参照するマニュアルの整備や電子メールやテキストチャットを用いて現地の越冬隊員との連絡を密にすることによりトラブル等にも迅速に対応できる支援体制を確立し、観測のデッドタイムを極力抑え可能な限り連続データの取得を進めていきたい。
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