2012 Fiscal Year Annual Research Report
太陽極大期の高エネルギー粒子の降込みが極域中間圏大気に及ぼす影響の観測的研究
Project/Area Number |
23340145
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水野 亮 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 教授 (80212231)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前澤 裕之 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00377780)
長濱 智生 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 准教授 (70377779)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中間圏大気 / 極域 / リモートセンシング / 太陽活動 / 環境変動 |
Research Abstract |
本研究は、太陽活動に伴う高エネルギー粒子の降り込みによって引き起こされるイオン‐分子反応が地球の中層大気の微量分子組成に与える影響を、H23年1月に南極昭和基地に設置した地上ミリ波分光計を用いた連続観測に基づき定量的に評価することを目的としている。H23年度1年間はいくつかの予期せぬ障害が発生したが、本課題により研究員として雇用した連携研究者(礒野)が昭和基地で越冬して観測を継続し、H24年1月下旬の太陽陽子イベント発生時にはイベントに起因するNOの増加を検出することに成功した。 H24年度は第53次南極観測隊の越冬隊員に観測運用を依頼し観測を継続した。観測隊員の負担軽減のため、大気吸収校正用の誘電体板の自動交換システムの導入、スケジューラ機能の観測プログラムへの組み込み等を行い、観測の無人化・自動化を進めた。 平成24年4月末には、太陽陽子フラックスにまったく変化が見られていないにも係わらず、NOのスペクトル強度が同年1月と3月の太陽陽子イベント時のさらに2倍程度にまで増加する現象が見出だされた。この時期はちょうど高速太陽風が地球に到達し大きな磁気嵐が発生した時期に対応し、磁気嵐に伴い増加した放射線帯の相対論的電子の降りこみによりNOが増加したと考えられる。DST指数やGOES衛星の高エネルギー電子のフラックスとNOの強度変化を比較したところ、磁気嵐主相の後に高エネルギー電子が増加した期間に対応してNO強度が増加し、4日めにNO強度はピークに達しその後3日ほどで通常のレベルまで減少していることが明らかになった。太陽陽子イベントに対しこれまでほとんど注目されずにきた高エネルギー電子によるNOの増加を明瞭に検出した重要な観測結果である。 また、1年間を通した長期的な傾向として、南極の秋から冬季にかけてNOの強度が月オーダーのタイムスケールで増加している傾向も見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は様々なトラブルに遭遇し思い通りに進まない点もあったが、H24年1月のガラスデュワー交換以降は連続観測が行なえるようになり、さらに本年度の改良により無人化・自動化が進んだ。ほぼ観測装置としては当初目標としていたレベルに到達したと言える。 H23年度に比べH24年度は昭和基地周辺でのブリザード発生頻度が高く、天候に伴う観測データ欠損があったものの、一年を通して定常的に観測が継続できた。これまでの観測結果は大規模な太陽陽子イベントの前後数日間程度か、極渦の活動が強まる冬季を中心とした数か月程度のものがほとんどで、一年を通して連続データを取得できた意義は大きいと考えられる。また、大気の条件の良い時期は3時間程度の積分で十分なS/Nが取得でき、4月末の放射線帯の相対論的電子の降りこみイベントの際には朝と夜の差が若干見られ、POES衛星によって得られている電子降りこみのフラックスデータとの相関を現在詳細に調べているところである。 交付申請時に設定した実施項目はほぼ達成できているが、天候によりデータの欠損があること、またNOの解析が進んでいる一方オゾンのデータ解析がまだ十分進んでいないこと等を考慮し、90%程度が達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
観測システムのハードウェアと観測プログラムについては行うべき開発はほぼ完了できたと考えている。今後の観測も基本的には南極観測隊越冬隊の協力の下に進めていく計画である。この1年間で現地での観測装置の操作方法、トラブルシューティングに関する詳細なマニュアルを整備した。また、毎年名古屋大学の実験室にある昭和基地と同タイプのミリ波分光計の試作機を利用して渡航前に3日間程度の隊員訓練を行っている。観測を継続していく上での大きな困難はないと考えられる。 現時点でやや遅れ気味であるのがデータ解析である。特にこれまで解析経験のなかった超高層の陽子や電子に関する衛星データ、磁気擾乱に関する指数等のデータをデータベースから切り出し、ミリ波観測データと比較できるように加工するのに思いのほか時間を要したが、一通りの解析用ツールは整備することができた。ただし、NOの解析に比べオゾンのデータが十分に解析できていないのが現状の問題点である。今後は、ポスドクも含めて解析の人員を増やし解析体制の強化をはかる。また、モデル研究者と連携し、より定量的な評価も始めている。具体的な研究内容としては、今年度の通年観測で得られた秋から冬季にかけてNOが増加する季節変動のような振る舞いについて注目している。増加の時期から極渦に伴う熱圏のNOの下降が影響している可能性が考えられるが、それだけでは説明が困難な数日レベルの短期的な減少も同時に見られ、また高エネルギー電子の降りこみも同時期に頻発していたため、現時点では原因の特定が難しい。今後の観測で長期変化の再現性を検証したい。また、中緯度帯でも磁気嵐に伴い放射線帯の相対論的電子の降りこみが期待されるブラジル磁気異常帯に隣接するチリ・アタカマ高地での比較観測も行い、電子の降りこみの影響についてより深い理解を得たいと考えている。
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Research Products
(7 results)