2011 Fiscal Year Annual Research Report
「深層地下水変動観測システム」で宮城県沖大地震の前兆を捉える研究
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23340150
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大槻 憲四郎 東北大学, 大学院・理学研究科, 名誉教授 (70004497)
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Keywords | 深層地下水変動 / 地震 / 体積歪変化 / 前兆変動 / 岩手宮城内陸地震 / 東北地方太平洋沖巨大地震 / いわき地震 |
Research Abstract |
(1) 「深層地下水変動観測システム」で2008年2月から2009年12月までの観測成果を地質学雑誌に公表した。潮汐体積歪の理論値と水位変化の観測値との比較から、水位換算体積歪がサイトMNでは2.3×10^<-9>/mm、サイトATでは0.5×10^<-9>/mmと見積もられた。2008年5月8日の茨城県沖地震(M7.0)、6月14日の岩手宮城内陸地震(M7.2)、7月19日の福島県沖地震(M6.9)、および7月24日の岩手県北部沿岸地震(M6.8)の直後に生じた水位・水温変動が捉えられた。地震による理論的静的体積歪変化から期待される水位変化と水位の観測値がほぼ一致したことは、水位変化の原因が静的体積歪であることを示唆する。震源距離をr(km)、マグニチュードMしたとき、我々の観測システムの地下水変動検出限界は、M=2.4logr+1.0で近似できる。 (2) 東北地方太平洋沖巨大地震の前震(3月9日のM7.3)、本震、余震(4月7日のM7.2など)の直後に全ての観測サイトで顕著な水位と水温の変化が認められた。しかし、明瞭な前兆変動は認められなかった。ラドン・炭酸ガス濃度には大地震直後の変化も認められなかった(地質学会で発表)。 (3) 余震に伴う水位変動を震源の間近で観測することにより、前兆的変動が捕捉できることを期待し、2011年4月11日にいわき地震(M7)の余震域に2つの深層孔井を借用して4月21日から50日間の臨時観測を実施した。水位換算体積歪の分解能は2.5~3×10^<-10>歪と敏感で、27個の地震に伴う水位変動を観測できた。発震機構解が求められている21個に関しては、水位変化が体積歪の理論値と比例するので、水位変化の主因は静的体積歪変化である。前兆変動とは断言できないが、約30%に地震直前の微弱な水位変動が伴われていた。この研究成果は地質学雑誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3.11の巨大地震が発生して計画当初の状況が一変したため、簡単には評価し難い。しかし、システムを継続稼働させて観測を継続してデータを蓄積していること、および4月11日のいわき地震に臨機応変に対応して臨時観測を実施し、精度のよい多くのデータを得て、水位変動の確実なメカニズムを理解できたので、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1.東北地方太平洋沖巨大地震が起きてしまったので、23年度計画に含めてあった「深層地下水変動観測システム」の若干の充実は見送ったが、巨大地震の後数年間は大地震が発生し易いので上記システムでの観測は継続すべきと考える。しかし、当初計画のままでは前兆的地下水変動を捉えることが困難である。 2.そこで試みたのが9の「研究実績の概要」で述べたいわき地震(M7)の余震に伴う地下水位変動の臨時観測であった。その結果、地下水位観測は体積歪分解能が3×10^<-10>程度の歪計での観測とほぼ同じことで、検出限界マグニチュードMcは震源距離r(単位はkm)の関数としてMc=2.48logr+1.00で近似できた。また、水位変化はM・Mcと定義した規格化マグニチュードM^*に比例する。他方、Shibazaki & Matsu'ura(1998,Geophys.J.Int.,132)によれば、加速フェーズにおける震源核のサイズは地震断層の長さの0.04倍程度であるという。すなわち、震源核で解放される地震モーメントをマグニチュードに換算すれば、それは本震のマグニチュードより約2.8小さく、M^*>2.8なら前兆的水位変動が観測されることになる。このことから、M7程度以上の内陸浅発地震直後の最大余震に伴う水位変動を、余震域内程度の震源距離で迅速に臨時観測するという戦略が効果的であろう。 3.東北地方太平洋沖巨大地震後、地震活動は福島県・茨城県沖に移動しているので、23年末に茨城県高萩市の自憤井でラドン・炭酸ガス濃度の観測を開始した。24年度も地震活動域の移動に対応した観測(とくに静かな深層孔井での水位観測)を行う必要がある。 4.東北地方太平洋沖巨大地震は地震発生過程の複雑さを知らしめたが、Hori & Miyazaki(2011,EPS,63)によるhierarchical asperity modelが示唆的だ。彼らによれば、千年程度の間隔でM9の地震が発生する領域内で、M7~8の地震が数十年毎に発生するようにするためには、M9とM7・8のアスペリティーにそれぞれ数mと数10cmのstate evolution length dcを与え、震源核の臨界サイズとしてそれぞれM9の震源域と同程度、およびM7~8の震源域より小さく与えればよいという。しかし、数mのdcを実現する物質や条件とはどのようなものであろうか。多分、すべり帯内での構造形成が関わっていると思えるが、これを考慮した摩擦すべり実験が必要である。
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