2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヒマラヤ山脈の上昇・削剥・冷却史とモンスーン変動史の研究
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23340156
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
酒井 治孝 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90183045)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 岳史 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10251612)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ヒマラヤ山脈 / 変成岩ナップ / 大陸衝突型造山帯 / 熱年代学 / 高温延性剪断帯 / モンスーン / 古気候 / 古環境 |
Research Abstract |
東ネパールのナップ前縁部で地質調査を行い,MCT zoneの詳細な地質図を作成し,この剪断帯の構成岩石がKuncha層であることを確認した。またこれまでMCTは延性剪断帯のため,その位置の認定について問題が指摘されてきたが,ナップの基底から初めてMCTの露頭を発見し,著しく脆性破壊した1~3mの断層帯を伴っていることを明らかにした。これは即ち,変成帯が地表に出現してから100km以上オーバースラストしたナップの下底は,低温下で破壊されていることを意味する。またMCTは通常の断層のように平面をなさず,波曲していることが明らかになった。さらにMCT zone中のトレモラ閃石と陽起石の球顆状結晶を使って歪み解析を行い, 扁平化はしているが伸長しておらず,歪みの多くはMCTに沿う断層帯に集中していたことが判明した。MCT zoneの変成岩の鏡下観察の結果,緑泥石帯から十字石、藍晶石帯に亘ることが判明し,変成分帯できることが分かった。 一方MCTとMBTに挟まれたヒマラヤの前縁山地の地質調査によって, この地帯が逆転翼をもつ過褶曲していることを明らかにした。さらにKunchaナップの前縁部は,そのルートゾーンに比べ変成度が格段に低いことが分かった。 MCT zone中のマイロナイト化した花崗岩とKuncha nappeの上部の石英砂岩に含まれるジルコンのU-Pb年代測定を行った。その結果, 前者は約18億年,後者は17.6億年より若いことが分かった。一方,MCT直上の片麻岩のジルコンのU-Pb年代分布は6~10億年前に幅広いピークを持ち、MCTの上盤と下盤では年代と起源が異なることが判明した。 古カトマンズ湖のボーリングコア最上部の花粉分析,有機分析,粘土鉱物の分析結果を総合的に検討した結果,約1.2万年前の寒冷期であるヤンガードリアス期を含んでいることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で行なった調査・研究の重要な成果は以下の4つである。(1)変成岩ナップ中の花崗岩の年齢は約18.5億年であるが,ヒマラヤ造山運動の過程で再流動しマイロナイト化し, その程度に応じてPbロスが生じており, その年代のピークは17Maであった。(2)Kunchaナップ中の花崗岩は16億年前以降中新世まで熱履歴を被っていない。(3)レッサーヒマラヤ帯の10,000mを超える地層は, 約19億年前の大陸のリフト形成とそれに引き続く非活動的縁辺で形成されたものであり, カナダの前期原生代の地層群と対比される。(4)変成岩ナップはナップの先端と表面から北方および内部に向かって徐々に冷却し、その等温線の後退速度は約1cm/yと推定される。これらの成果を国際会議(第27回Himalaya-Karakoram-Tibet Workshop)で講演し, 高い評価を得た。またそれらをまとめた論文2編が国際誌に受理された。一方,野外調査では, ヒマラヤで初めてとなる脆性破壊したMCTの断層帯を発見し,その断層岩の研究を行っている。従来MCTは,変成帯が上昇した際の基底のスラストと考えられており, 高温・高圧下での延性剪断帯と捉えられてきた。ナップの基底部から発見された脆性破壊した断層帯の熱履歴と断層岩の研究によって, ナップの運動と冷却, およびヒマラヤの上昇について一石を投じる成果を出せるものと期待できる。本研究課題ではヒマラヤの削剥史についても研究する計画で, 20~3Maの前縁盆地堆積物の組織的サンプリングを行なうことができた。これまでに約100個のサンプルを採取し,その薄片を作成し鏡下観察を行なっているが,ナップ本体の研究に時間を取られ, 充分な成果を挙げるには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では,東ネパールに分布する変成岩ナップ前縁帯の研究に焦点を絞る。高度変成岩ナップ直下のMCTzoneとその下位のKunchaナップの詳細な地質図,構造図,変成分帯図を作成する。さらにMCTzoneおよびKunchaナップを構成する岩石について,砕屑性ジルコンとアパタイトを抽出し,U-Pb年代とFT年代を求め,MCTzoneの熱履歴とKunchaナップの起源を考究する。また昨年度の調査で発見されたMCTの断層露頭については,詳細な構造地質学的研究を行う。また脆性破壊したMCTの断層帯の内部を, 高温の流体がいつまで流れていたのかを調べるために, 断層帯とそれに隣接する岩石中のジルコンとアパタイトのFT年代を測定する。さらにMCTzone中の高温流体活動の履歴を解明するために,石英砂岩や石英レンズ中の流体包有物の組成を調べ, その飽和温度を明らかにする。一方MCTzone中の変形プロセスと歪み分布を解明する目的で,石英砂岩と球顆状トレモラ閃石の歪み解析を行なう。これらの研究を総合して,変成岩ナップの上昇と前進プロセス, および冷却過程と高温熱水活動の履歴を明らかにする。ヒマラヤの削剥に関する研究では,テクトニクスの変化と河川堆積物の鉱物組成の変化の関係を明らかにする。現世河川堆積物として,インダス-ツアンポー縫合帯,変成帯とテチス帯,レッサーヒマラヤ帯など供給源を異にする河川の砂を対象に選ぶ。また変成岩が地表に出現する前の20Ma頃,地表に出現した15Ma頃,ナップが前進を停止した10Ma頃,ヒマラヤ前縁断層が形成され始めた3Ma頃の河川堆積物を対象に選ぶ。ナップの研究成果と河川堆積物の研究成果を併せ,ヒマラヤの上昇と削剥過程を明らかにする計画である。
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Research Products
(8 results)