2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23350004
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松下 道雄 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (80260032)
|
Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2014-03-31
|
Keywords | 量子ビット / 核スピン / 単一分子分光 / 希土類イオン |
Research Abstract |
本研究は、スピンを量子ビットとした量子コンピュータの実現に不可欠な、一個のスピンの量子状態を乱すことなく読み取ることを目指している。実際の一個の原子核の磁気モーメントは小さすぎて直接観測できないが、1個の原子が放つ発光は十分検出可能である。そこで我々は静磁場の下で固体中の一個のイオンの発光波長がその核スピン状態ごとに異なることを利用して、単一イオンを発光検出し、発光波長からその量子状態を観測することにした。このとき、イオンの光励起状態は核スピン状態による超微細構造が分離できるだけ十分に長い寿命を持つ必要がある。この条件を満たすものの中から対象とした系は、三弗化ランタン結晶中の希土類イオン、特に3価のプラセオジムイオンである。 単一希土類イオンの光検出は、単一原子核の磁気モーメントの直接検出に比べれば見込みがあるとはいえ、非常に困難であることには変わりない。長寿命な励起状態への遷移を用いなければならないため、通常の単一分子分光で扱う有機色素分子に比べると発光量が3桁少ない。従ってこの実験を成功させるためには装置の抜本的な改良が必要である。 そこで我々は、液体ヘリウム中で使用可能な本格的な対物レンズが存在しないことに着目し、独自に開発することにした。冷しても結像能が悪くならないためには、対物レンズは一体成形でなければならない。しかし一方で対物レンズが一種類の材料から作られていると、色収差が必ず存在する。この矛盾を、一体成形の反射型対物レンズとすることで一挙に解決した。一個の石英に材料内部へ向けて球面鏡を2面作りこみ、材料の界面は全て焦点に集まる光線に対して垂直になるようにした。最初は球面鏡二枚だったが片方を非球面鏡とすることで一層集光能が向上した。最終的に集光能が約2桁向上した為、1秒間に200~300カウント程度の単一イオンからの信号を捉えることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最大の難関は単一プラセオジムイオンの光検出であった。今日一般に行われている単一分子分光の対象とする色素分子の発光に比べてプラセオジムイオンの発光は約三桁弱いからである。液体ヘリウム中で使用できる、集光効率が高く色収差のない対物レンズの開発と、核スピン状態の光ポンピングを阻止するための励起光の工夫によって単一イオンの発光検出を可能にした。 次はl静磁場を準備して磁場中の単一イオンの測定に向かうが、これも単に位置イオン検出ができたから直ぐに実現するものではない。最大の山は2年目で越えることができたが、前途にはまだまだ解決すべき難題が残っているので「おおむね順調」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
単一イオンの光検出が達成できたので、次は静磁場中に試料を置き、励起レーザーがどの波長のときにイオンが発光するかを知れば、観測中の単一核スピンがどの量子状態にあるかを知ることができる。このため、試料の結晶に対してある決まった向きに数テスラの磁場をかけなければならない。液体ヘリウム中で数テスラの静磁場を作るには超伝導線を用いたヘルムホルツ型のスプリットコイルをヘリウム槽内に入れればよい。これを上下左右前後3方向に作れば地場の向きを任意に制御できる。
|