2012 Fiscal Year Annual Research Report
多極子異方吸収による新しいエネルギー準位創出と表面増強ラマン分光法への応用
Project/Area Number |
23350031
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長谷川 健 京都大学, 化学研究所, 教授 (30258123)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | ラマン分光法 / 多極子相互作用 / ラマン散乱テンソル / 分子配向 / 有機超薄膜 |
Research Abstract |
平成24年度は,とくに理論の構築と検証に時間を割いた.ローレンツの相反定理を基軸に取り込み,かつ散乱テンソル異方性を考慮したラマン散乱解析理論はこれまでなく,詳細な異方性解析がすでに行われているステアリン酸カドミウムLangmuir-Blodgett膜を標準試料として実験的にも検証した. ローレンツの相反定理は,薄膜の構造や異方性,不均一性などに関係なく,分子をアンテナに見立ててそこから制動放射されるラマン散乱光を定量的に予測できるシンプルで強力な理論である.これを電磁場解析に組み込み,さらにフレネル係数の計算に吸収の効果も組み込むことができる.これにより,分子座標系でのテンソルと実験室座標系を定量的につなぐことができ,そこから分子配向を明らかにすることができる. これには,標準試料のラマンスペクトルから,どのバンドを解析に使うのが適当かを見極める必要があった.すなわち,偏光ラマンスペクトルの偏光の組み合わせを制御して得られるバンド強度の変化から,基準振動の持つ振動の対称性に関する知見を得て,そこからもっとも簡単なラマン散乱テンソルに結び付けられるb1g対称性のバンドを選んで解析を行った. 実験的には,単分子膜レベルの超薄膜のラマンスペクトルを非共鳴条件で測定することができるようになった.また,分光器の偏光特性の除去に専心し,きわめて精度の高い変更解消度測定ができるようになった. これを用いて測定した偏光ラマンスペクトルから,b1gに対応するCH2逆対称伸縮振動に解析の対象を絞り解析したところ,分子が膜面に垂直配向し,かつ分子座標でのラマン散乱テンソル成分がαxx=αzzを満たす時に,偏光解消度がゼロになることを突き止めた.さらに,分子座標系で見たいわゆるラマン散乱テンソルの相対関係にも着目し,量子化学計算を同時に進めてた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた散乱理論の構築が順調に進んだことと,苦労していた定量的に信頼できる偏光解消度の測定が万全な体制を整えることができたため,極めて順調に予定をこなすことができたといえる.
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題の向かっている方向は,非平滑な界面に対応できるラマン散乱分光法を構築することである.H24年度に平滑界面を仮定した場合のラマン散乱分光解析の理論が完成したため,今後は非平滑界面での入射光の反射・散乱・吸収を考慮できる解析方法の開発に乗り出す.
|