2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23350036
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
林 久史 日本女子大学, 理学部, 教授 (60250833)
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Keywords | X線ラマン散乱 / XAFS / XANES / X線分析 / 溶液の局所構造 / コアロス / 高分解能分光 |
Research Abstract |
X線ラマン散乱は、電子線エネルギー損失分光法(EELS)分光では「コアロス」とよばれるスペクトル構造で、内殻の吸収スペクトル(XAFS)と等価な情報を与える。EELSの「コアロス」と比較すると、高真空が不要で窓材が使えるという特徴があり、特に溶液系の有用な局所分析プローブとして期待されてきた。しかし、強度が弱いため、現在X線ラマン散乱は放射光施設でしか測定されておらず、広い応用には至っていない。本研究の目的は、実験室でX線ラマン散乱を測定できる装置(仮称「イーグル」)を開発し、1~数日程度の積算で、ホウ素(B)と炭素(C)のXAFSを1~2eVの分解能で測定できるようにすることである。本研究によって、X線ラマン散乱を実験室での(軽元素)実用分析に利用できるようになれば、触媒科学、溶液化学、材料科学など、広範な分野に貢献しうる。 本年度は、本研究の鍵である「イーグル」分光器の製作に全力を注いできた。これまで例のない「実験室でのX線ラマン散乱の高精度測定」を実現するには、信号強度の弱さをカバーしながら、低ノイズかつ高分解能でスペクトル測定ができる特殊な分光器を設計段階から開発・製作する必要がある。現在、分光器全体の設計、パルスモーターコントローラーなど駆動機構の購入と動作確認、Ge(444)球面湾曲結晶やSi(400)非対称円筒面湾曲結晶など、各種分光結晶の購入と性能評価、真空チェンバーの製作、分光器の制御プログラムの開発、X線発生装置の改良、そしてそれぞれのパーツの配置・組み立てが終了し、装置全体を調整している段階である。今後はグラファイトを試料として、強度と分解能をチェックししながら、「イーグル」分光器を最適化していく。最終的には、グラファイトのClsによるコアロス(CK-XAFS)を分解能~1.5eVで、1日程度の積算時間で、状態分析が可能な精度で測定することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東日本大震災のために、10月まで予算執行額が7割に抑制され、装置製作を一部停止せざるを得なかった。この中断期間には、現有の分光器を使っていくつかの予備的測定を実施し、その成果を論文にまとめたものの、この遅れのために、分光器の最終的な完成に至っていないことを遺憾とする。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は「イーグル」分光器の最終的完成を目指し、グラファイトの弾性散乱とX線ラマン散乱の測定を通じて、感度と分解能の最適化を図る。数日程度の積算で、分解能1.5eVでグラファイトのC K-XAFSが観測できたら、分光器がプロトタイプとして完成したとみなす。そして、メタノールなどのC1化合物やホウ酸などB1化合物について研究を展開し、X線ラマン散乱法の「実験室での分析法」としての有用性を実証していく。
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