2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23350036
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
林 久史 日本女子大学, 理学部, 教授 (60250833)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | X線ラマン散乱 / XAFS / XANES / X線分析 / 高分解能分光 |
Research Abstract |
X線ラマン散乱は、電子線エネルギー損失分光法(EELS)では「コアロス」とよばれるスペクトル構造で、内殻の吸収スペクトル(XAFS)と等価な情報を与える。EELSの「コアロス」と比較すると、高真空が不要で窓材が使えるという特徴があり、特に溶液系の有用な局所分析プローブとして期待されてきた。しかし、強度が弱いため、現在X線ラマン散乱は放射光施設でしか測定されておらず、広い応用には至っていない。本研究の目的は、実験室でX線ラマン散乱を測定できる装置(仮称「イーグル」)を開発し、1~数日程度の積算で、ホウ素(B)と炭素(C)のXAFSを1~2 eVの分解能で測定できるようにすることである。本研究によって、X線ラマン散乱を実験室での(軽元素)実用分析に利用できるようになれば、触媒科学や溶液化学など、広範な分野に貢献しうる。 本年度は、「イーグル」の最適化を目論み、主にグラファイトを試料として、装置分解能を検証しながら、分光器を調整してきた。調整過程において、エネルギー分散型の分光もできるような機能を分光器に付与したため、「イーグル」は波長分散型分光とエネルギー分散型分光の両方ができるハイブリッドな分光器になった。こうした作業の結果、分解能0.5 eVという、実験室の1結晶分光器としては非常に高い分解能でX線発光スペクトルが得られるようになった。しかしながら、用いた球面湾曲結晶の反射率が想定以上に低く、グラファイトのC1sによるXANES(C K-XANES)をX線ラマン散乱から得るには至らなかった。分光結晶の反射率を確認するため、放射光実験も行ったが、こちらからは予期せぬ興味深い結果が得られたので、論文にまとめた。 上記の結果に鑑みて、「イーグル」で実現された高分解能をラマン測定以外にも活かせるよう、蛍光X線の化学シフト測定など、分光器の多目的化の検討にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
0.5 eVという、実験室用としては高い分解能を有する新しいタイプのX線発光分光器の開発には成功した。しかしながら、用いたGe分光結晶の反射率が予想以上に低かったため、当初の目的であった「グラファイトのC1sによるXANES(C K-XANES)をX線ラマン散乱から1日程度の積算で得る」には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
分光結晶の反射率の低さは、本研究を進める上で相当大きな問題である。当面は、分光結晶の受光面積を大きくするなど(分解能の悪化とトレードオフではあるが)、できる限りの手段をつくして改良に努めたい。 その一方で、開発した分光器の高分解能性と、調整の過程で装備したエネルギー分散型分光機能を活かした「分光器の多目的化」も視野に入れたい。具体的には、CrやCdなど、環境的に重要な元素からの蛍光X線を「イーグル」で高分解能分光し、蛍光X線の化学シフトから化学状態分析するという応用や、水生植物など、溶液試料だけでなく生体試料中における元素の動的なダイナミクスをエネルギー分散型分光で追う応用などを考えている。
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Research Products
(6 results)