Research Abstract |
報告者の研究グループでは最近,銀触媒の存在下,二酸化炭素分子がプロパルギルアルコールないしアミン誘導体に導入され,対応する環状カーボナート誘導体およびオキサゾリジノン誘導体が収率よく得られることを見いだした。また,光学活性なSchiff塩基配位子を有する銀触媒を適用すると,対称なビスプロパルギルアルコールと二酸化炭素の反応が非対称化を伴いながら進行し,高エナンチオ選択的に光学活性環状カーボナートが得られる。いずれの反応でも,銀塩が最も効果的な触媒であり,X線構造解析およびNOE測定により生成物のエキソオレフィンはZ体であることから,銀触媒によるアルキン活性化を経由する反応機構が推定され,モデル化合物を用いた理論解析からもこれを支持する結果が得られた。今回,銀触媒によるアルキン活性化を基軸として炭素-炭素結合形成を伴う二酸化炭素の固定化を試みた。すなわち,適切な位置にアルキンを有するカルボニル化合物をモデル基質とし,エノラート形成に必要な種々の塩基の存在下,二酸化炭素との反応を試みた。その結果,銀触媒を用いた場合のみ反応が円滑に進行し,活性化されたアルキン上で環化したと考えられる,Z体のオレフィンを有する五員環ラクトン誘導体が得られることを見出した。反応条件最適化の結果,DMF溶媒中で1.0MPaの二酸化炭素雰囲気下,20mol%の安息香酸銀(AgOBz)と4当量の7-Methyl-1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene(MTBD)を用いて25℃で48時間反応を行うと,収率91%で目的とする生成物が得られることがわかった。その他の誘導体からも最適条件下,目的の五員環ラクトン誘導体が高収率で得られた。生成物のエキソオレフィンはこの場合もZ体であることから,銀触媒によるアルキン活性化を経由する機構で反応が進行したものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の検討テーマとして設定した炭素-炭素結合の生成を伴う二酸化炭素分子の固定化反応において,系中発生によるエノラートによる捕捉と銀触媒活性化によるラクトン誘導体としての定着に成功し,これらの成果を現在論文投稿が完了し,審査過程にある。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の成果は速報として論文投稿済み審査中であるが,基質一般性拡大や一部の基質の収率改善などを計画2年度で予定している。また,初年度の検討結果から派生する基質,誘導体への展開も検討を行う。これらの成果に加え,詳細な反応機構の解析も包含した研究報告を目指す。一方,当初計画に示した,二酸化炭素分子の炭素分子の酸化状態の化学的に実現する反応系の構築に関して,予備的な検討は開始した。水素移動反応系および金属水素化物による直接的な還元系の双方について検討する計画である。
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