Research Abstract |
本研究課題では,非磁性半導体中の電子スピン制御の観点からスピン軌道制御,とりわけ,系の構造反転非対称性に起因するラシュバ効果についての研究を進めている.研究の最初の目的であった,In_<0.53>Ga_<0.47>As/In_<0.52>Al_<0.48>As量子井戸系でのスピン軌道相互作用係数の定量的決定に関しては,研究開始前の2010年度に既に目標を達成した[Faniel et al., Phys.Rev.B 83, 115309 (2011)].これによって,ラシュバのスピン軌道相互作用係数αの値が量子井戸の内部電場<E_z>にに比例する(α=α_<SO><E_z>)ことがほぼ厳密に示されると共に,ラシュバ効果と共存するドレッセルハウス効果はほとんど無視できることが明らかになった.また,ゲートにより<E_z>=0となる試料で,スピン軌道相互作用が最小となるゲート電圧においても,僅かながら弱反局在効果が観察され,単純なラシュバ効果,ドレッセルハウス効果以外,或いはラシュバ効果,ドレッセルハウス効果の空間負均一性など複雑な機構によるスピン緩和のメカニズムが存在することが示唆された.次に,メゾスコピックループ配列構造に見られるスピン干渉効果の極低温(電子温度100mK)での測定,及び半古典ビリヤードシミュレーションを行った.このような極低温での測定では,位相コヒーレンスが長くなることから,これまでの1~1.5Kの温度での測定では観察されなかった,高次の量子振動(Altshuler-Aronov-Spivak振動)が観察されたが,現時点では,Altshuler-Aronov-Spivak振動の基本振動部分にまつわるスピン干渉効果のみ,半古典ビリヤードシミュレーションによる解析が完了した[Mineshige et al., Phys.Rev.B 84, 233305 (2011)].このようなスピン軌道相互作用の詳細な理解は,半導体微細加工(ナノデバイスエンジニアリング)による,単電子デバイスのスピン制御やスピン流の生成のための非常に重要な知見を与えるものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では,「スピン軌道相互作用係数の定量的決定」が最初の研究目標であったが,研究開始前の2010年度にこの目標が達成し,論文発表まで漕ぎ着けた点に関しては,当初の計画以上に進展しているということが出来る.しかし,メゾスコピック系ループ配列構造でのスピン干渉効果の理解や,2重量子井戸系でのランダウ量子化の実験研究及びスピンフィルタ効果の検証等,多くの他の目標も設定しており,全てにおいて計画以上に進展することはほぼ不可能である.その意味で「概ね順調に進展している」という自己評価が妥当である.
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Strategy for Future Research Activity |
予備的な実験結果として,メゾスコピックループ配列構造の量子磁気抵抗振動(Altshuler-Aronov-Spivak振動)が高次の周波数成分も含めて<E_2>>0の領域(ゲート電圧)と<E_2><0の領域で対称的に繰り返す効果が観察されている.これは,ラシュバ効果に対するオンサーガーカシミールの相反性と言うことも出来る,今後は,両領域に現れる量子磁気抵抗振動がそれだけ相関を持ったものであるかを定量的に示すと共に,InGaAs2重量子井戸におけるランダウ量子化の実験,スピンフィルタ効果の検証実験を進めていく.
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