2012 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ多結晶ダイヤモンドと各種遷移金属との間に生じる熱化学反応機構の解明
Project/Area Number |
23360071
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Research Institution | Fukuoka Institute of Technology |
Principal Investigator |
仙波 卓弥 福岡工業大学, 工学部, 教授 (30154678)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天本 祥文 福岡工業大学, 工学部, 助教 (00505670)
藤山 博一 福岡工業大学, 工学部, 准教授 (50148912)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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Keywords | マイクロナノ加工 / 超精密加工 / 高硬度金型材料 / ナノ多結晶ダイヤモンド / 焼結ダイヤモンド / 熱化学反応 |
Research Abstract |
平成23年度には,鏡面研磨した焼結ダイヤモンド(PCD)製円板に対して電解加工と高周波スパッタを行い,PCDに焼結助剤として用いられているコバルトCoを電気陰性度や比熱容量が異なる9種類の遷移金属で置換したPCD製円板を試作した.また,試作したPCD製円板をツルーアに使用しレーザ成形されたナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)製ノーズRバイトのすくい面に対して乾式研削を行い,NPDとPCD製円板との熱化学反応のメカニズムを解明するための実験研究を行った. その結果,NPDとPCD製円板の間には,(1) PCDに高周波スパッタした遷移金属によって電子を奪われ結合力が低下して脆弱になったNPDの表面層が,PCDツルーアの砥石作用面にあるダイヤモンド砥粒によって除去される.(2) 乾式研削時にNPDの表面に生成された熱変質層が,PCD製ツルーアの砥石作用面に露出しているダイヤモンド砥粒によって除去される.といった,2つの現象が生じていることが確かめられた.また,(2)のメカニズムでNPDから切りくずが除去される場合には,PCDに高周波スパッタした遷移金属の比熱容量が増すに従って平滑な加工面が得られることが明らかになった. 切れ刃が鋭利なNPD製の切削工具を成形するためには,すくい面や逃げ面を1 nm Rz以下の粗さに成形できる工具成形技術を開発する必要がある.そこで,平成24年度にはCoを遷移金属だけでなく,比熱容量の高い酸化物や炭化物等で置換したPCD製円板を試作した.また,前年度と同様にNPD製ノーズRバイトのすくい面に対する乾式研削を行い,粗さが1 nm Rz以下の加工面を創成するための実験を行った. その結果,Coを比熱容量の高い窒化硼素BNや炭化硼素B4Cで置換したPCD製円板をツルーアに用いた場合には,粗さが1 nm Rz以下の平滑な加工面を作ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高純度グラファイトをダイヤモンドに直接変換したナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)は,単結晶ダイヤモンドよりも硬いだけでなく,劈開が伝播しない性質を持っている.したがって,NPDは高硬度金型材料に対して超精密切削を行うことができる,単結晶ダイヤモンドに代わる超精密切削加工用の工具素材として使用される可能性が高い. 切削工具の切れ刃はすくい面と逃げ面とが交わる稜線であり,単結晶ダイヤモンド製の切削工具と同様に欠けが無く鋭利な切れ刃を成形するためには,NPD製切削工具のすくい面や逃げ面を1 nm Rz以下の粗さに成形することができる,工具成形技術を開発する必要がある. 本研究の最終目標は,単結晶ダイヤモンド製の切削工具と同様に欠けが無く鋭利な切れ刃を成形できる工具成形技術を開発することであり,この最終目標を達成するためにNPDとNPDを成形するためのツルーアとして用いているPCD製円板との間に生じる熱化学反応のメカニズムを解明するための基礎実験を行っている. これまでに,Coを遷移金属,酸化物,ならびに炭化物で置換したPCD製円板をツルーアに用いてレーザ成形されたノーズRバイトのすくい面に対して乾式研削を行い,NPDとPCD製円板との間に生じる熱化学反応のメカニズムを解明するための基礎研究を行った. その結果,Coを比熱容量の高い窒化硼素BNや炭化硼素B4Cで置換したPCD製円板をツルーアに用いた場合には,NPDの表面に生成された熱変質層がダイヤモンド砥粒によって機械的に除去されるといったメカニズムでNPDから切りくずが除去され,粗さが1 nm Rz以下の平滑な加工面を創成することができた. 本研究の最終目標を達成するために残されている課題は,逃げ面を1 nm Rz以下の粗さに成形できる工具成形技術を開発することであり,現時点で最終目標の80 %は達成できていると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で紹介したように,NPDとそれを成形するためのツルーアとして使用したPCD製円板との間には,(1) PCDに高周波スパッタした遷移金属によって電子を奪われ結合力が低下して脆弱になったNPDの表面層が,PCDツルーアの砥石作用面にあるダイヤモンド砥粒によって除去される.(2) 乾式研削時にNPDの表面に生成された熱変質層が,PCD製ツルーアの砥石作用面に露出しているダイヤモンド砥粒によって除去される.といった,2つの現象が生じていることが確かめられた. また,上記(1)のメカニズムでNPDから切りくずが除去される場合には,PCD製円板に高周波スパッタした遷移金属の電気陰性度が増すに従ってNPDの除去能率は増加するが加工面の粗さは悪くなることが明らかになった.また,上記(2)のメカニズムでNPDから切りくずが除去される場合には,NPDに高周波スパッタした遷移金属や酸化物,ならびに炭化物の比熱容量が増すに従って加工面は平滑に成形されることが確かめられた.なかでも,Coを比熱容量の高い窒化硼素BNや炭化硼素B4Cで置換したPCD製円板をツルーアに用いた場合には,粗さが1 nm Rz以下の平滑な加工面を作ることができた. 過去2年間に得られた研究の成果を踏まえ,平成25年度には鏡面研磨されたPCD製円板に対して電解加工と高周波スパッタを行い,Coを比熱容量の高い窒化ホウ素BNや炭化硼素B4Cで置換したPCD製円板を試作する.また,試作したPCD製円板をツルーアに用いてレーザ成形されたNPD製ノーズRバイトのすくい面や逃げ面に対して乾式研削を行い,欠けがない鋭利な切れ刃が成形できることを証明する.工具成形に成功した後,試作したNPD製ノーズRバイトを使用し,硬さが2600 Hvの超硬合金に対する超精密切削試験を実施する予定である.
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