2012 Fiscal Year Annual Research Report
電子構造とフォノン分散を考慮した熱電材料設計指針の構築と高性能熱電材料の創製
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23360278
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
竹内 恒博 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (00293655)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 熱電材料 / 電子構造 / 電子物性 / 格子熱伝導度 / 第一原理計算 / 材料設計指針 |
Research Abstract |
(a)第一原理計算を利用したAl-Mn-Si系熱電材料の材料改質指針の構築,(b)FeSb2で観測される巨大ゼーベック係数の起源の解明,および,(c)数値シミュレーションを利用した熱電材料としての最適な条件を特定する研究を実施した.それぞれに対して得られた成果を以下に示す. (a)これまでに,Al-Mn-Si系C54相は熱電材料として優れた電子構造を有していることを第一原理計算により明らかにし,検証実験を進めてきた.今年度は電子構造および電子物性を維持したまま格子熱伝導度を低減させる手法として,フェルミ準位近傍に不純物準位を形成しない重元素で構成元素を部分置換する方法を選択した.バンド計算とクラスター計算によりMnをRu, Re, Ta, Wで置換することが効果的であることを見いだした.6at.% Mnを3at. % Ruと3 at.%Reで共置換した試料を作製し,実際に,格子熱伝導度が無置換試料の1/3以下に低下することを明らかにした.結果として,無次元性能指数を約5.5倍にまで増大させることに成功した. (b)FeSb2で観測される巨大なゼーベック係数の起源を明らかにする目的で高分解能角度分解光電子分光を実施した.ゼーベック係数の絶対値が大きい材料と小さい材料を比較することで,ゼーベック係数の増大にフェルミ準位近傍の準粒子寿命の増大が深く寄与していることを明らかにした.また,磁化測定,比熱測定,比抵抗およびゼーベック係数の測定から,高濃度近藤効果により巨大なゼーベック係数が生み出されている可能性が高いことを明らかにした. (c)線型応答理論に基づき数値シミュレーションを行うことで,熱電材料の性能指数ZTが大きくなる条件を探索した結果,化学ポテンシャルから2~4kBT離れた領域においてスペクトル伝導度に3kBT程度の幅のピークが存在することが望ましいことを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の目的は,『微視的観点から熱電物性支配因子を解明し,その制御方法を見いだすことで,様々な用途に利用可能な,安価で,環境に優しく,高性能な熱電材料の開発することで,低炭素社会の実現に寄与すること』である.この目的を達成するために,幾つかのことなる材料を取扱い,それぞれに対して電子構造解析を主要な方法として研究を進めている. これまでに,詳細な電子構造解析が物性の理解に必須であることを証明し,また,得られた知見を基にした材料開発が効果的であることを実証してきた.当初掲げた研究項目((1)熱電材料の物性を正確に理解するための基礎研究,(2)基礎研究の結果を利用した材料設計指針の構築,および,(3)構築した熱電材料設計指針に基づく新規熱電材料と新規熱電デバイスの創製)は,概ね全て計画通りに実施しており,特に,無次元性能指数の大きな材料を安価で環境に優しい合金系で創成するなど,目的に掲げた成果を得ることに成功している. 残りの1年の研究期間で,着実に,最終目的に到達できると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究の最終年度となる平成25年度には,研究計画に記載した項目((1)熱電材料の物性を正確に理解するための基礎研究,(2)基礎研究の結果を利用した材料設計指針の構築,および,(3)構築した熱電材料設計指針に基づく新規熱電材料の創製)が完成の域に達するように以下の研究を遂行する予定である. (1)の研究に関しては,フォノン分散の折畳み効果による格子熱伝導度の低減機構の解明が残されている.この研究を実施するために,RFスパッタ法を用いた薄膜の作製を進めており,すでに,エピタキシャル成長し,かつ,表面平坦性の高いFe2VAl系合金の創成に成功している.この合金を用いて,質量の分布および周期長の異なる人工超格子薄膜を作製する.作製した膜の熱伝導度を調べることで,格子熱伝導度を効果的に低減させる条件が明らかになるはずである. (2)に関しては,これまでの思考実験.数値シミュレーション,第一原理計算の利用において,高度な材料設計指針を構築できていると考えている.平成25年度には.数値シミュレーションを繰り返すことで,この設計指針をさらに高度化し,その内容を論文や著書にまとめるたいと考えている. (3)に関しては,(2)の研究において構築された設計指針に基づき,Al-Mn-Si系C54相以外の熱電材料を開発する.実際に材料が開発されることで,設計指針が正しいことを実証する計画である.なお,材料の探索には,結晶構造データブック,第一原理計算,および,クラスター計算を利用する予定である.熱電材料として最も重要な条件は,バンド端に化学ポテンシャルが存在することであるので,既に,半導体となる化合物を結晶構造データベースから抜き出し,フェルミ準位近傍の電子構造を明らかにし,良い熱電物性を示し得る材料を特定する研究を開始している.残された1年間の研究において,新しい材料を提案できると考えている.
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Research Products
(31 results)