2012 Fiscal Year Annual Research Report
燃料被覆管の表面酸化膜における水素移動のその場観察
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23360427
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高木 郁二 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20206717)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋吉 優史 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70378793)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 軽水炉 / 被覆管 / 水素化 / 酸化膜 / 拡散 / 照射 / 加速器 |
Research Abstract |
本研究の目的は、原子炉の燃料を閉じこめるための被覆管材料(ジルコニウム合金)の表面に生成した酸化膜中を水素がどのように移動するのかを調べ、被覆管が置かれた環境や原子炉内での中性子照射が及ぼす影響を評価し、水素移動の機構を明らかにすることである。機構が明らかになれば、多量の水素を被覆管が吸収することによって起こる脆化現象を防ぐことができる。 1年目の昨年度はプラズマと加速器分析を組み合わせた同時観察法を確立し、移動速度を決定づける拡散係数を数値解析によって求めた。2年目の今年度は、以下の3つの研究を行った。 (1)放出法の開発: 軽水(通常の水)で酸化させた試料を短期間重水で酸化腐食させることによって、適量の重水素を試料に含ませ、その試料を加熱したときの重水素の濃度変化を加速器分析によって観察し、結果を数値解析して拡散係数を評価する手法を開発した。 (2)イオン照射の影響: 原子炉内の中性子照射をイオンで模擬し、照射損傷が水素の移動に及ぼす影響を調べた。照射イオンはH、O及びZrであり、(1)で開発した方法を用いて実験を行った。試料酸化膜は水素の移動が速い非バリア層と移動が遅いバリア層の二層構造になっていることは昨年度の研究で明らかになっていたが、照射によってバリア層が厚くなり、水素の吸収を抑制する効果があることがわかった。 (3)腐食環境の影響: 水酸化リチウムを添加した水で酸化させた試料の酸化膜は単層構造であり、水素の拡散は水蒸気腐食よりも1桁程度速かった。このように、腐食環境は水素の移動に大きな影響を及ぼすことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた(1)~(3)の実験は当初予定していたものであり、以下のようにおおむね達成することができた。 (1)は予定通り評価手法を開発した。 (2)はイオン照射による顕著な効果が現れたため、当初の予定よりもイオン種やエネルギーの範囲を増やした系統的な実験を行った。その結果、バリア層の変化が損傷量に依存するなどの知見が得られた。 (3)は(2)の実験項目を増やした結果、当初予定していた高温酸化による影響を調べることができなかったが、LiOH腐食と水蒸気腐食の違いが明らかとなり、腐食環境が水素の移動に影響を及ぼすことを明瞭に示したので、目的は達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である来年度は、今までの実験を系統的に実施し、酸化膜中の水素移動の機構を考察する。水素は拡散現象によって移動することが明らかになったが、拡散係数がどのようなパラメータ、特に照射損傷、に影響を受けるかということは分かっていない。照射範囲を今年度よりも更に拡げ、傾向を把握する予定である。照射によって残留応力が引き起こされることは分かっているので、イオン照射試料の酸化膜をX線回折などで調べることにより、応力と拡散係数やバリア層の厚みとの関係を調べる。また、添加元素の酸化膜中の価数も拡散係数に影響を及ぼし得ると考えられるので、文献調査などによって考察を進める。 また、当初の計画にはなかったが、いわゆる腐食遷移が起きた後の酸化膜についても研究する。今までは腐食遷移前の酸化膜について調べてきたが、実際の被覆管は遷移後の期間の方が長いため、この状態での水素の移動を把握する必要がある。 手法は今まで用いてきたのと同じであるため、研究遂行の問題はないと考えられる。加速器施設が耐震改修工事により半年間使えない状態となるため、使用可能な期間は実験を集中して行い、工事期間中はX線回折や長期間腐食が必要な試料作成、文献調査などに充てて効率的に研究を行う予定である。
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Research Products
(9 results)