2011 Fiscal Year Annual Research Report
記憶の忘却を制御する分子・神経回路メカニズムの遺伝学的解析
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23370002
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石原 健 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10249948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 学 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70359933)
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Keywords | 神経科学 / 学習 / 線虫 / 遺伝学 |
Research Abstract |
動物は、神経回路において様々な情報を適切に処理することによって、環境に適応した行動ができる。刻々と変化する環境に適応するためには、記憶の保持時間は適切に制御される必要がある。本研究においては、単純な神経回路を持つ線虫C. elegansをモデルとして、これまでほとんど明らかになっていない「記憶の忘却」のメカニズムに焦点をあて、それを担う分子や神経回路メカニズムの解明を目指している。 本年度は、塩走性学習に関わる神経細胞の同定を、神経細胞に特異的なプロモーターによる表現型回復実験により解析した。この結果、塩走性学習の記憶の獲得に必要な神経細胞とは異なる複数のニューロンが関わっていることが明らかになった。このことは、塩走性学習の忘却にも神経間コミュニケーションが関わっていると考えられる。 忘却を促進するシグナル経路に異常を持つ変異体について、忘れやすい変異体のサプレッサー変異体としてスクリーニングを行い71株の変異体を同定することに成功した。これらの変異体について解析したところ、学習を担う神経細胞に特異的なものと特異的でないものの二種類に分類できたことから、忘却を促進するシグナル経路が途中で神経細胞特異的に分岐していると考えている。 ジアセチルを受容するAWA感覚ニューロンにCa2+センサーを発現させ、ジアセチルに依存した応答を観察した。この結果、ジアセチルに対して順応させると、その応答が弱くなり、餌の上で4時間飼育すると回復した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、忘却を制御するシグナル経路に関わると考えられる変異体について、71株を単離することに成功した。これらの変異体を解析することによって、忘却促進シグナルやその下流で働く忘却を促進する因子を同定することが可能になると考えている。さらに、感覚ニューロンが異なる嗅覚順応について、シグナル経路が分岐していることも明らかになり、今後原因遺伝子の同定によりそのメカニズムが明らかになると考えている。 感覚ニューロンのカルシウム応答が、嗅覚順応やその後の忘却に伴って行動の変化と同じような時間変化を示すことから、感覚ニューロンレベルで嗅覚順応とその忘却が起きていると考えられた。このことと、忘却を制御するシグナル経路の働くニューロンの同定から、積極的に忘却を促進するシグナルが存在することが示された。 塩走性学習の忘却を制御するニューロンについても、少数のニューロンが働いていること、それらが記憶の形成とは異なるニューロンであったことから、神経間コミュニケーションで忘却を制御していることが明らかになった。 このように、本研究は当初の計画をすすめることができて、今後の発展が期待できる状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに同定した忘却に異常を示す変異体について、全ゲノム解析とSNPマッピングによって、原因遺伝子の同定をすすめる。表現型の回復実験や他の対立遺伝子の変異表現型と比較することによって、原因遺伝子を決定する。 その原因遺伝子が働く神経細胞について、特定の神経細胞における表現型回復実験をすることによって、その遺伝子が働く神経細胞を決定する。 その細胞について、分子遺伝学手法を用いて、神経活動の抑制、神経伝達の抑制などをすることによって、その神経細胞が忘却制御に果たす役割を明らかにしていく。 これらの解析によって、忘却を制御するメカニズムを遺伝学的手法を用いて明らかにしていく。
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Research Products
(21 results)