2012 Fiscal Year Annual Research Report
記憶の忘却を制御する分子・神経回路メカニズムの遺伝学的解析
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23370002
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石原 健 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10249948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 学 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70359933)
猿渡 悦子 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60456605)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 神経科学 / 遺伝学 / 学習 |
Research Abstract |
①記憶を忘れさせるシグナル経路の同定(藤原・石原) 我々は、ジアセチルに対する順応の記憶は、AWC感覚ニューロンからのシグナルによって忘却が促されていることがわかった。そこで、AWCニューロンからの忘却促進シグナルが強くなっているtir-1(gf)変異体をもとにして、記憶の保持時間が延びている変異体を同定した。これについて、全ゲノムの塩基配列を決定し、原因遺伝子の同定を進め、1つの変異体の原因遺伝子を決定した。塩走性学習の忘却機構についても研究を進め、ジアセチルに対する順応の忘却が起きにくい変異体では、塩走性学習の忘却も起きにくいことを明らかにした。 ②神経活動が忘却の制御に及ぼす影響の解析(石原) これまでの解析から、AWCニューロンの神経活動を抑制することによって、ジアセチルに対する順応の記憶が伸びることが分かった。そこで、ハロロドプシンなどをAWCにおいて発現させ、記憶の保持時間が延びるかどうかを調べた。その結果、ハロロドプシンの活性化によって記憶の保持時間が有意には伸びなかった。 ③神経活動のイメージングによる忘却過程の可視化(猿渡、石原) 我々が忘却のモデルとして用いているブタノンエンハンスメントや嗅覚順応では、感覚刺激に対する行動の変化を用いている。これらの行動可塑性において、神経回路における感覚情報処理のどの段階で可塑的な変化が生じているかについて、神経細胞のCa2+イメージングによって解析した。ブタノンを受容しているAWCニューロンの活動は、条件付け前に比べ、ブタノンエンハンスメントの条件付け後には、有意に強くなっていた。また、この変化は、行動としてはブタノンエンハンスメントの消去が起きても保持されていた。このことは、ブタノンエンハンスメントの消去は、感覚受容より下流で起きていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①忘却を制御しているメカニズムの解析については、本年度までに、新しい原因遺伝子を同定することに成功するなど、着実に発展している。今後、これらの遺伝子産物がどのように働いているかなどを明らかにすることによって、忘却の詳細なメカニズムを明らかにできると考えている。 ②記憶の消去にかかわるメカニズムに関する研究も、感覚受容の下流で消去が起きていることを明らかにするなど着実に進展していると考えている。 ③忘却を能動的に促すニューロンの発見と忘却のメカニズムに関する論文を、生命科学のトップジャーナルの一つに掲載した。この成果は、プレスリリースを行い複数の全国紙などで取り上げられた。
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Strategy for Future Research Activity |
①本年度までに単離した記憶の保持時間が伸びている変異体について、変異の染色体上へのマッピングと全塩基配列の決定とを組み合わせることによって、どの遺伝子の変異が忘却の表現型の原因となっているかを明らかにする。 ②忘却が起きにくい変異体をスクリーニングして、忘却が起きやすくなった変異体を同定することによって、記憶を維持する機構にかかわる遺伝子の変異体を探索する。 ③ブタノンエンハンスメントの記憶の消去にかかわる変異体については、本年度までに感覚受容そのものには異常がないことが分かった。そこで、感覚ニューロンからのシナプス伝達に異常がないかを明らかにするために、シナプス伝達の亢進や減弱などが起きていないかを薬理学的方法を用いることによって解析する。
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Research Products
(13 results)