Research Abstract |
(1)交尾器形態にかかる選択の検証 交尾を通して交尾器の機能的部分(交尾片,膣盲嚢)の大きさにかかる選択圧を推定するために,交尾器部分のサイズに違いのあるマヤサンオサムシ京都市産(原亜種)と滋賀県阿星山産(信楽亜種)の成虫を野外で採集し,亜種内,亜種間で交尾させて交尾行動を観察し,交尾終了後に冷凍固定した.解凍後,雌を解剖して,膣内の精包形成の有無,精包の位置と重量を記録した。また,雌雄の体サイズ,交尾器各部のサイズを計測した.2亜種は体サイズはほぼ同じであるが,雄交尾器の陰茎長,交尾片長,雌交尾器の膣盲嚢長は信楽亜種が長い.すべての交配データについてGLM解析を行った結果,精包形成率,精包サイズ,交尾時間において,交尾器形質値の違いの効果は得られなかった.しかし交尾後ガードは信楽亜種において有意に高頻度でみられた. (2)交尾器の種間差に関わる遺伝子探索のためのトランスクリプトーム解析 交尾器の発生過程で発現する遺伝子を,近縁で交尾器形態が大きく異なるイワワキオサムシ,ドウキョウオサムシの間で比較し,種間差に関連する遺伝子の候補を決めるために,3令(前蛹),蛹期の腹部から,全RNAを抽出し,MNAを精製,Roche FLXを用いて,シーケンスを行った.得られたシーケンスをアセンブルし,BLASTによってアノテーションを行った-また,遺伝子ごとにクラスタリングを行い,GO termによって,機能別に分類し,その分類ごとに遺伝子発現量を2種間で比較した.アセンブルの結果,2種からそれぞれ約15000のコンティグが得られた.これを遺伝子ごとにクラスタリングして,約4500のクラスターが得られた.得られた遺伝子のシーケンスは,ゲノム情報が多い,キイロショウジョウバエ,コクヌストモドキとの高い類似性が確認され,おおむね妥当な結果とみなされた.またGO termで分類した機能群ごとに,2種間の発現の違いを検討した結果,一部に発現量の異なるものが見出された。また,交尾器のみのトランスクリプトームを比較するために,2種の雌雄それぞれの蛹の交尾器部分から全RNAを抽出し,mRNAを精製した(シーケンス中). (3)RADマーカーによるオオオサムシ亜属の種間関係解明 交尾器多様化をともなう本亜属の種分化の過程を全ゲノムレベルのSNPデータから解明するため,RADマーカーのデータをIllumina HiSeq2000で得た.それをもとに系統解析を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交尾器形質の機能と選択過程についての実験は,初年度であり,ひとつの実験しかできなかったが,一定の成果が得られ,次年度の実験立案に有用な知見が得られており,また次の実験の準備も進んでいる.また,交尾器の種間差をもたらす遺伝子探索のための手始めとして,トランスクリプトーム解析を行ったが,デノボのシーケンス解析としては成功し,発現遺伝子に関する多くの知見が得られた.さらに,年度末には追加のトランスクリプトームのシーケンスの準備ができた.またRADマーカーによる系統解析も順調に進行している.これらのことからおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
交尾器形態の機能とそれに対する選択様式についての実験的検証では,マヤサンオサムシを用いた精包置換の仕組みの解明を行うとともに,2亜種を用いて,2回目交尾のさいの精包置換において交尾片の長さの差が何らかの効果を持つかについての検証を行う.交尾器各部の機能や精子競争の仕組みに関しては未知の部分が多いため,基礎的な研究の積み重ねが必要である.交尾器形態に関与する遺伝子探索については,年度初めに交尾器部分に限定した発現mRNAのシーケンスが完了するため,そのデータを解析して,候補遺伝子の特定を行う.また,Roche FLXではデータ量が限られるため,今年度はIllumina HiSeq2000を用いたRNAseqも行う.さらに交尾器多様化をともなう種分化について,RADマーカーによる全ゲノムからの種分化過程解明にも挑戦する.
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