2012 Fiscal Year Annual Research Report
交尾器進化による種分化:種間差をもたらす性選択と遺伝子
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23370011
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
曽田 貞滋 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00192625)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高見 泰興 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (60432358)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 昆虫 / 交尾器 / 性選択 / 種分化 / 発現遺伝子 |
Research Abstract |
(1)交尾器にかかる選択の実証的研究:マヤサンオサムシの2亜種を用いて,交尾直後の雌に雄が2回目の交尾をする場合に,どのような形質が授精・精包置換の成否に影響するかを調べ,性的対立が交尾器形質の進化にかかわることを示唆する結果を得た. 雄間競争(精子競争)における雄の投資調節の実態を明らかにした.未交尾の雌よりも既交尾の雌により多くの精子を投資した.また,精子競争下での雄の父性獲得率を2回交尾実験で測定したところ,既交尾雌と交尾した雄の父性獲得率はやや高かった.さらにこの雄の精子は,優先的に受精に使われた.既交尾の雌に多くの精子を投資するという雄の投資調節は適応的であることが示唆された. 交尾器形態の多様化をもたらす性淘汰の形を,形態変異の相対量から推定することを試みた.変動係数を用いた比較の結果,雄の交尾器形質は体サイズよりも変異が小さく,安定化淘汰を受けている可能性が示唆された.また,雌雄間で対応する部位(交尾片長と膣盲嚢長;陰茎長と交尾嚢長)では,常に雄よりも雌形質の方が大きな変異を示した. (2)交尾器形態の異なる種間での幼虫・蛹期の発現遺伝子比較:イワワキオサムシとドウキョウオサムシの終令幼虫,蛹のトランスクリプトーム比較を,454シーケンスデータを用いて行い,発現量の異なる遺伝子の検討を行った. (3)オオオサムシ亜属の高精度系統解析:次世代シーケンサーによるRADシーケンスを行い,大量のSNPマーカーに基づく系統解析を行った.イワワキ・アオオサムシ種群において,短い交尾片,長い交尾片の進化が繰り返し起こったことが裏付けられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交尾器形質にかかる選択に関する実証的研究に関しては,マヤサンオサムシの2亜種を用いた1回交尾,2回交尾の実験が一通り終了し,論文作成の段階に入っており,成果が得られつつある.また,関連した性選択に関する実験的研究も,研究分担者により順調に進んでいる. 交尾器形質の種間差にかかわる遺伝子探索のための比較トランスクリプトーム解析に関しては,2回の454シーケンスデータをまとめてアセンブリを行い,種間比較を行って論文作成の段階に入った.やや遅れているが来年度中には成果を公表できる.原因遺伝子を絞るところまでは難しいと考えられるが,ある程度示唆的なデータが得られる見通しである. RADシーケンスによる系統解析に関しては,比較的新しい試みで,チャレンジングな部分もあるため,解析方法に関する論文と,オオオサムシ亜属の進化に関する論文の2つを次年度内に公表する予定である. 各項目において,画期的な成果が得られているとは言いがたいが,新規性のある実証データが得られており,研究が概ね順調に進んでいると言えると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたり,交尾器形質への選択,トランスクリプトームの種間比較,RADシーケンスによる系統解析の論文を公表し,次のステップへの足がかりを構築する. 交尾器形質の種間差に関する遺伝的基盤の研究を推進するため,発現の異なる遺伝子に関して,RNAi実験を試みること,ゲノム配列に関する情報を整え,種間差をもたらす遺伝子・ゲノム領域に関して具体的な知見を得るために,RNAシーケンスの追加,RADマーカーを用いたアソシエーション解析などを試みる.また全ゲノム配列の解読によって,交尾器進化の研究を発展させる方向も模索する.
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Research Products
(5 results)