2012 Fiscal Year Annual Research Report
摘出脳イメージングを核とする昆虫性行動の脳制御機構の研究
Project/Area Number |
23370035
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
坂井 貴臣 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50322730)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 耕平 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (40332556)
朝野 維起 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40347266)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 性行動 / 性的受容性 / ショウジョウバエ / painless / インスリン分泌細胞 |
Research Abstract |
本研究は昆虫脳におけるインスリン分泌細胞(IPCs)と性行動の関係に注目した。これまでに,ショウジョウバエメスの性的受容性(オスを受け入れる度合い)とCa2+透過性TRPチャネル(Pain)の関係について研究し、RNA干渉法によるIPCsにおけるPainの発現抑制によりメスの性的受容性が上昇することと,IPCsからの神経分泌を遺伝学的に阻害するとメスの性的受容性が上昇することを見出した。これらの結果から,Pain TRPチャネルがIPCsからの神経分泌を制御している可能性が考えられた。そこで, IPCsから分泌され,かつ,メスの性的受容性の制御にかかわる物質を推定するための研究を行った。GABAおよびアセチルコリンの合成酵素(Gad1, Cha)と3つのインスリン様ペプチド[Insulin-like peptide (Ilp) 2, Ilp3, Ilp5]のRNAiコンストラクトを用いてIPCs特異的な発現抑制実験を行った。Gad1およびChaの発現抑制はメスの性的受容性に影響を与えなかった。また,GABA抗体やCha抗体を用いてメス脳の免疫染色を行ったが,IPCsにおけるGABAやChaの共発現は確認されなかった。一方,Ilp2-RNAiおよびIlp5-RNAiをIPCsで発現させた時にはメスの性的受容性が著しく上昇し,Ilp3-RNAiを発現させても性的受容性に影響がなかった。Ilp2-RNAiおよびIlp5-RNAiを用いた時の表現型はpain変異体メスと酷似しており,PainがIPCsへのCa2+流入を調節することでインスリン分泌が制御される可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに,恒常活性型のK+チャネルをIPCsに発現させることによりIPCsの神経活動を抑制する実験と,IPCsからの神経分泌を遺伝学的に抑制する実験を行い,いずれもメスの性的受容性が上昇することを見出していた。これらの結果はIPCsにおけるPain TRPチャネルの発現抑制実験の結果とよく似ていることから,「Pain TRPチャネルがIPCsからの神経分泌を制御している」という仮説を立てていた。しかし,IPCsから分泌いつされ,かつ,メスの性的受容性の制御にかかわる物質が同定されていなかった。本研究ではGABAおよびアセチルコリンという2つの神経伝達物質の関与を詳細に調べた。GABAとアセチルコリンはショウジョウバエ脳のメジャーな神経伝達物質であることが知られているものの,IPCsがこれらの伝達物質を合成・放出していることを示す証拠は得られなかった。しかし,3つのインスリン様ペプチドのうち,Ilp2およびIlp5のRANiコンストラクトを用いた場合メスの性的受容性が上昇したことから,インスリンシグナルの活性化がメスの性的受容性の制御に関与している可能性が示された。これらの結果は,研究開始当初に立てていた仮説を完全にサポートするものでる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から,PainがIPCsへのCa2+流入を調節することでインスリン様ペプチドの分泌が制御される可能性が考えられる。しかし,RNAiを用いた実験では,オフターゲットの問題が付きまとうため,行動解析によりIlp2, 3, 5のいずれがメスの性的受容性の制御に関与するのかを特定することは困難であった。そこで,以下の①~③の実験によりメスの性的受容性の制御にかかわるインスリン様ペプチド遺伝子を特定する:①Ilp2-RNAiおよびIlp5-RNAiをIPCsで発現させたときに,Ilp2, 3, 5それぞれの遺伝子発現がどの程度低下するのか,定量PCRにより確認する。②Ilp2, 3, 5のノックアウト(KO)バエを用い,性的受容性が上昇するか確認する。③Ilp2-KO, Ilp3-KO, Ilp5-KOに正常なIlp遺伝子を発現させ,性的受容性が野生型レベルまで回復するか確認する。 さらに,pain変異によりIPCsの神経活動が抑制されているかどうかを脳イメージング解析により検証する予定である。
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Research Products
(8 results)