Research Abstract |
現生哺乳類の系統関係は,分子系統解析の適用によって近年大きく再編されたが,分子データを抽出できない絶滅分類群はこの再編から取り残されている。本課題は,絶滅哺乳類の肉歯目(Creodonta)について,系統的位置を再検討するとともに,その古生物地理的特徴と系統的位置との関係を明らかにしようとするものである。 (1)哺乳類内での肉歯類の系統的位置を検討するために,国内研究機関(京都大学霊長類研究所と国立科学博物館)の所蔵標本を使用して,肉歯目,伝統的に肉歯目と近縁と考えられてきた食肉目,その現生姉妹群である有鱗類,そして生物地理的分布が良く似るアフリカ獣類を形態比較した。化石で見つかりやすい部位のうち,系統解析に使用できる可能性のある形質を検討した。 (2)研究代表者と分担者が参加している調査において収集した肉歯類標本の同定を,フランス国立自然史博物館(パリ)の所蔵標本との比較などをもとにして,行った。肉歯目内の系統関係についての予備的な解析からは,幾つかの肉歯目が異なる時期に南部ユーラシアを通って,拡散したという仮説が得られた。 (3)肉歯目は北半球とアフリカの暁新統最上部~中新統に産出するが,東アジアにおける哺乳動物相の化石記録は,一部の地域以外は未解明の部分が多い。モンゴル,ミャンマー,タイの哺乳類化石について,同定・系統解析・記載をすすめた。一部成果は4編の学術雑誌で公表したほか,Society of Vertebrate Paleontology(古脊椎動物学会)などで発表した。食肉類やメソニクス類については,古第三紀東アジアにおける産出記録をもとに,その拡散パターンを,肉歯類のものと対比した。この内容はSenckenberg自然史博物館で開催された国際シンポジウムで発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
肉歯目の哺乳類内での系統位置の検討については,海外研究機関に所蔵されている標本を用いて,データを増やしたうえで,系統解析を行う。古生物地理的な観点からの肉歯目の特徴の検討については,引き続きアジアを中心とした肉歯類の同定・記載を進め,肉歯目の拡散経路と時期を明らかにしていく。また,共伴哺乳動物相の記載を進めることで,他の哺乳動物分類群の拡散と肉歯類の場合との類似と相違を明らかにする。
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