2012 Fiscal Year Annual Research Report
斑点米カメムシのイネ加害過程における各行動を制御している物質群の解明
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23380031
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
堀 雅敏 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70372307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長澤 淳彦 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60616431)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 害虫 / 斑点米カメムシ / イネ / 水田 / 寄主選択 / 摂食刺激物質 / 誘引物質 / 吸汁行動 |
Research Abstract |
水田におけるイネ開花穂放出成分に関しては、水田で、10:30、13:30、14:30から各1時間捕集したイネ開花穂香気を分析した。切った開花穂からはβ-Caryophylleneの放出割合が増えることが研究代表者らの先行研究で明らかとなっているが、水田での実際のイネ開花穂の主要香気成分もβ-Caryophylleneであることが明らかになった。β-Caryophylleneの放出量は昼間は高く、夕方は低くなることも明らかになった。切り穂ではGeranyl acetoneの放出割合もβ-Caryophylleneと同程度に高かったが、水田のイネはほとんど放出していないことが明らかになった。その他、切り穂で主要成分とされたβ-Elemene、n-Decanal、Methyl salicylate、n-Trideceneは水田でのイネからも比較的多く放出されていた。切り穂で放出されていたLimoneneは水田での穂からは検出されず、代わりにβ-Phellandreneが放出されていた。 触角電位応答に関しては、アカヒゲホソミドリカスミカメ(以下、アカヒゲ)でフェロモン成分に対するEAD応答が採れたが、SN比が悪く、植物香気物質に対する応答は採れなかった。さらに改善が必要である。 ビデオと吸汁行動測定装置による移動、吸汁行動の日周性解析では、両行動ともアカヒゲが明期に、アカスジカスミカメ(以下、アカスジ)が暗期に活発になるものの、両種とも昼夜行性種であることが明らかになった。 吸汁行動を制御するイネ成分の解析では、糊熟期のイネ穂のメタノール抽出物がアカヒゲの口針挿入行動を刺激することが示唆されたが、口針挿入後の吸汁行動は刺激しないことも示唆された。このことから、口針挿入後の吸汁行動を刺激する物質はアルコールには溶けにくい物質であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水田におけるイネ開花穂放出成分の分析は、水田で穂を袋掛けにし、ヘッドスペース成分をTenaxで捕集してGC-MSに導入し、分析したところ、良好な分析結果を得ることができた。これにより、実際にイネ開花穂が水田で放出している香気成分組成を明らかにすることができた。さらには、その組成が一日の中でも時間帯により変化していくことも明らかにできた。 イネ開花穂香気物質に対するカスミカメムシ類の電気生理応答解析は、アカヒゲでフェロモン成分に対するEAD応答は採れたもののまだSN比が悪く、イネ開花穂香気中に含まれる成分の標品では応答が採れていない。触角マウント法や装置のセッテイングの改善がまだ必要である。 カスミカメムシ類の吸汁行動の日周性調査については、アカスジの吸汁・移動行動の日周性解析も終え、H23年度に実施したアカヒゲとの違いを明らかにすることができた。すなわち、移動行動、吸汁行動とも、アカヒゲは昼行性寄りの昼夜行性昆虫であるのに対し、アカスジは夜行性寄りの昼夜行性昆虫であることを明らかにできた。 各吸汁行動段階における吸汁波形の解析では、口針挿入から連続吸汁、吸汁終了に至る一連の吸汁行動を吸汁行動測定装置の波形から解析できるようになった。 口針挿入行動および口針挿入後の吸汁行動を制御するイネ成分の解析では、多孔質フィルムを通して人工飼料を吸汁させるアッセイ系を確立し、メタノール抽出物が口針挿入行動を制御することを明らかにした。しかし、メタノール抽出物は口針挿入後の吸汁行動は制御せず、挿入後の制御物質は抽出できていない。また、ヘキサン抽出物については、まだアッセイが実施できていない。 以上から、半分以上の項目は計画通りに進んでいるが、やや遅れている項目もあったため、全体としては「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
水田におけるイネの放出香気の分析については、イネの生育に伴う香気成分組成の変化だけでなく、1日の中での時間帯による変化も明らかにする。そのため、イネの各成育段階において、朝、昼、夕の3回香気物質を捕集して分析し、成分組成を比較する。イネ開花穂香気に対する触角電位図法については、対象昆虫をアカヒゲに絞って解析する。 アカヒゲの移動、吸汁行動は明期後半に活発になることが、H24年度の結果から明らかになったことから、夕方に捕集したイネ開花穂香気をポータブルパイロライザーでGC-EADおよびGC-MSに導入し、触角応答を生じさせる香気成分を明らかにする。植物香気物質に対する触角電位応答がアカヒゲではまだ採れていないため、イネの開花までに、触角のマウント法の改善、機器の最適化を図る。 吸汁行動を制御するイネ成分の解析では、H24年度の結果から糊熟期イネ穂のメタノール抽出物がアカヒゲの口針挿入行動を制御していることが示唆された。よって、今後は、メタノール抽出物の口針挿入行動制御活性についてさらに詳しく調べた後、その中に含まれる活性物質を単離、同定していく。また、バイオアッセイ系については、H24年度はメタノール抽出物を人工飼料に混ぜ込んでアカヒゲに与えたが、人工飼料表面を覆うフィルムに塗布した場合のアッセイ系も検討する。糊熟期イネ穂のヘキサン抽出物については、抽出は終えたもののバイオアッセイがまだ未実施のため、口針挿入行動に対して刺激活性をもつか明らかにする。また、糊熟期イネ穂のメタノール抽出物については、口針挿入後の吸汁行動を制御する活性はないことが、H24年度の結果から示唆されている。そこで、口針挿入後に働く活性物質を抽出するために、糊熟期穂を磨砕して水で抽出し、抽出物の活性を調査する。活性評価はすべて、吸汁行動解析装置による吸汁波形を用いて行う。
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Research Products
(2 results)