2012 Fiscal Year Annual Research Report
新規創農薬ターゲットの創出を目指した昆虫性決定カスケードの標的遺伝子の網羅的解析
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23380032
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 雅京 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (30360572)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 性決定 / 選択的スプライシング / ヒストン修飾 / ヒストンH3メチル化 / W染色体 / カイコ / 自己スプライシング制御 |
Research Abstract |
まず、Bmdsxの雄型スプライシング制御に関わるBmIMPの雄特異的発現制御機構の解明を目指した研究を行った。PT-PCRとRACE法による詳細な解析の結果、BmIMPのエクソン8は雄特異的に選択されることが明らかになった。エクソン8の雄特異的選択は、BmIMPが自身のpre-mRNA に存在するAリッチな配列に結合することによって促進されることがわかった。一方、BmIMPの胚発生時におけるオス特異的スプライシングの実行には、ヒストンH3のメチル化レベルの雌雄差が関与することを突き止めた。ChIP-qPCRによってH3K79me2の分布を調べた結果、BmIMPでは雄においてエクソン8周辺の領域で雌よりも顕著に高いエンリッチメントが見られた。BmIMPにおける転写伸長効率を調べたところ、雌に比べ雄の方が高いことや、DOT1Lをノックダウンした雄の転写伸長効率が雌に近い値にまで減少していることがわかった。転写伸長阻害剤を雄の培養細胞に処理した結果、雄型BmIMPの発現量が特異的に減少することも確認された。以上の結果から、DOT1LによるBmIMP上のH3K79me2の雄における高レベル化が転写伸長効率を増加させ、これが雄型BmIMPのスプライシングを可能にしているとのモデルを提唱した。 次にカイコの性決定時期を特定するため、Bmdsxの胚発生時における発現パターンを経時的に解析した結果、産下後29hrから32hrの間に性決定が起こることが判明した。カイコの性決定の最上流遺伝子Femを同定するため、この時期のRNAをde noveトランスクリプトーム解析に供試し、雌で特異的に発現する遺伝子を選抜し、その中からカイコ及びクワコのW染色体に座乗する遺伝子2つを同定することができた。現在、これらの遺伝子についてノックダウンによる機能解析実験を実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
カイコの性決定のマスター遺伝子であるFemを同定するための実験については、当初の計画通り概ね順調に進み、現時点で有力候補遺伝子を2つ見つけることが出来ている。計画通りに進んでいるとは言うものの、これまでFemを同定しようと試みた研究グループは数多くあり、いずれも成功には至らなかったことを考慮すると、本年度の研究だけでFem候補遺伝子まで到達できたことは、非常に大きな進展であると言える。しかし、当初の計画以上に進展した点は、Bmdsxの上流遺伝子であるBmIMPの雄特異的スプライシング制御機構についての理解である。本年度の研究だけで、すでにBmIMPが自己スプライシング制御を行っていることを明らかにし、自身のpre-mRNA上の結合部位まで特定することに成功した。性決定遺伝子の多くは自己制御機構を有していることから、BmIMPにおいて自己スプライシング制御機構が確認されたことは、この遺伝子がカイコの性決定において記憶素子としての機能を有する中心的な遺伝子であることをも示唆する。さらに、BmIMPにおけるH3K79のメチル化レベルに雌雄差が見られることを発見し、それが転写伸長効率を増加させ、雄型BmIMPのスプライシングを可能にすることを示唆する重要な示唆を得ることにも成功した。ヒストンH3のメチル化が選択的スプライシング制御に関わることはこの2~3年でようやく明らかになった現象であり、カイコの性決定遺伝子の性特異的スプライシング制御についてもヒストンH3のメチル化が関与していることは我々が当初予想していなかったことである。勿論、昆虫においてヒストンH3のメチル化が性特異的スプライシング制御に関わることを示したのは本研究が初である。以上の点から、現在までの達成度は当初の計画以上に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究成果を土台として、以下の研究を推進する。 1) IMPのメチル化に雌雄差をもたらすメカニズムの解明ーIMPはオス特異的RNA結合因子でありBmdsxのオス型スプライシングの誘導に関わる。昨年の本研究成果によりIMP遺伝子領域におけるH3K79のメチル化レベルがオスで高いことがRNAPIIの転写伸長効率の増加をもたらし、それがIMPのオス特異的発現制御に関わることを明らかにした。そこで本年度はIMPにおけるH3K79のメチル化レベルの性差がどのようにして生み出されるのか、そのメカニズムを明らかにする。 2) de novoトランスクリプトーム解析データに基づくメス決定遺伝子の同定ー昨年の本研究成果によりカイコの性決定時期を特定し、その時期の卵における遺伝子発現プロファイルを取得するため、de novoトランスクリプトーム解析を行うことが出来た。この解析により既にメス決定遺伝子Femである可能性のある候補遺伝子を2つ同定することが出来たので、ノックダウンによりこれらの遺伝子の機能解析及び標的遺伝子の同定を行う。 3) de novoトランスクリプトーム解析データに基づくオス決定遺伝子の同定ーZ染色体の数の違いが鱗翅目昆虫の性を決めている例も報告されている。そこで上記de novoトランスクリプトーム解析データに基づき、オスで有意に高い発現を示す遺伝子のうちZ染色体に座乗する遺伝子を網羅的に探索し、ノックダウンによる機能解析実験によりオス決定に関わる遺伝子を絞り込む。 4) ゲノムリシーケンスによる間性突然変異原因遺伝子の同定ー間性を生じる変異系統のゲノムリシーケンスを行う。リファレンス配列(カイコの正常型p50のゲノム配列)との比較により間性系統特異的変異をゲノムワイドに探索し、その中から性決定遺伝子を特定する。
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Research Products
(6 results)