Research Abstract |
カイコガで同定された精子成熟開始因子である,ユニークなセリンプロテアーゼ・イニシャトリンに注目して,オス側からみた昆虫生殖の分子メカニズムの理解を目指した。具体的な成果として, (1)イニシャトリンの酵素学的な性質のさらなる検討を行い,特に,二つ以上のアルギニンが連なった配列のC末端側をよく切断することを明らかにした。 (2)イニシャトリンが作用する基質タンパク質の一つとして,オス生殖腺部位特異的に作られ生殖腺分泌物として放出されるカルボキシペプチダーゼの存在を明らかにした。さらに,当該酵素の遺伝子をクローニングすることで決定された全アミノ酸配列から推測される,イニシャトリン切断配列には,(1)の成果を支持するように二つ以上のアルギニンが連なった配列が存在することを見出した。 (3)カイコガ以外の広範な昆虫における精子成熟因子の存在を明らかにする目的から,ヤママユガ科(シンジュサン,ヒマサン,ヤママユ,ヒメヤママユ,ウスタビガ),スズメガ科(エビガラスズメ,オオスカシバ)のオス生殖腺の形態,未交尾オスにおける精子貯蔵部位と精子の状態の記載を行った。次に,in vitroでこれら供試昆虫の貯蔵精子に対して,trypsin,イニシャトリンを含む粗抽出液を与え,カイコガと類似した反応が誘導されることを見出した。そして,この知見に基づき,イニシャトリン様タンパク質をコードする遺伝子の単離と生殖腺での発現部位について調査した。これらの結果より,鱗翅目昆虫ではイニシャトリン様タンパク質が精子成熟因子として機能しているものと強く予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画を進行させるのに必要な大型研究物品の整備も完了し,これを利用することにより,1年目の研究計画をほぼ遂行できた。また,得られた成果は,一部,論文の形で公表できた。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね,当初計画に則って推進出来ており,特段の変更や対応策を講じる必要はないものと考える。また,研究計画段階で,予想された問題点についても解決出来ている。本年度に得られた成果を足がかりに,さらにブラッシュアップすることで確実な研究計画の推進ができるものと考えている。
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