2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23380080
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
呉 炳雲 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (10396814)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 範久 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00282567)
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Keywords | 外生菌根菌 / 相互作用 / 多様性 / 共生 / 根外菌糸体 / トレーサー実験 / 菌糸融合 / クロマツ |
Research Abstract |
森林生態系においては,多種多様な菌根菌が際立って多様性の高い安定した菌根菌群集構造を維持している。本研究では,この菌根共生系の多様性を生み出すメガニズムや多様性が持つ生態的意味に着目し,地下部における菌糸体ネットワーク間の相互作用及びそれと菌根共生機能との関係を明らかにする。 平成23年度では,遺伝的異なる2つの菌根菌株の根外菌糸ネットワーク間の相互作用及び物質転流について研究を行った。この2菌株の菌根苗を根箱のオアシス上に移植し,菌糸体が十分に伸長してからオアシスごと切断し,同様に切断した別の菌根苗の菌糸体と隣り合わせて接触させ2週間栽培した。同菌株菌糸体間では接触部で菌糸の融合が起こった。融合した菌糸は菌糸束を形成する傾向があった。異菌株間では菌糸の融合は起こらず,接触部より相手の菌糸体がある領域内に菌糸が伸長することも無かった。接触後2週間後に,片側の苗の地上部に14CO2を与えることで光合成産物の標識と,片側の苗の根外菌糸体に33Pの標識をそれぞれ行い,経時的オートラジオグラフィーを行った。14C標識の結果では,同菌株の菌糸体間で14Cの移動が観察されたが,異菌株間では14Cの移動が全く見られなかった。33P標識の結果においても,同菌株の菌糸体間では,33Pは菌糸体結合部を通過し反対側の菌糸体や菌根,地上部に転流したことが判明した。異菌株間では33Pの移動が全く見られなかった。このことから互いに和合性である同菌株間では菌糸の融合部を通して14Cや33Pの移動が起こったと考えられる。実際の森林林床下では,菌糸体ネットワーク間の融合によって物理的に結合する菌糸体は空間的広がり,機能的にも炭素栄養や,リンなどの無機栄養の転流ドメインを拡大することができ,生態的に大きな意味を持つと考えられる。この研究成果は国際誌『New Phytologist』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初,地下部におけるコツブタケ菌株間の相互作用を解明するために,海外でコツブタケ用に開発されたマイクロサテライト(SSR)マーカーの利用を予定していた。しかし,平成23年10月頃,海外産と日本産のコツブタケが別種であることが,本研究のDNA解析により明らかとなり,既存のSSRマーカーが利用できないことが判明した。そのため,新たに日本産コツブタケ用のSSRマーカーを開発し,当初の目的であった栽培共生系における菌株間の根外菌糸体の相互作用に関する実験が可能になった。しかし,マーカーの開発に4ヶ月を要したため,現在までの達成度はやや遅れている。 また、学内の共同利用機器としてNanoSIMS 50Lが利用可能となったが、この装置は生体組織の中の同位体の詳細分布を調べることができるため、この装置を用いることで,菌根共生系における炭素・窒素の物質転流・代謝を解明する上で,当初に計画していた以上の画期的な成果が得られると考えられた。そこで,安定同位体13Cと15Nでダブルラベルのアミノ酸の標識実験や、光合成による宿主地上部からの13CO2標識実験を新たに計画した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 菌根菌菌糸体間の相互作用の研究:遺伝的に異なるジェネット間の根外菌糸体ネットワークにおいても,菌糸融合の可能性とその機能的面での重要な生態的意味がある。それを検証するため,引き続き富士山等の調査地から菌株を収集し,根箱の接種実験及びトレーサー実験によって研究を行う。 (2) 菌根菌間の相互作用と多様性の関係の研究:複数の菌株を同一マツ苗の根箱に接種し、共生系を作る。DNA同定によって、経時的にそれぞれの菌株の分布領域を調べることにより,複数菌株が安定した共存関係を構築するメガニズムを解明する。 (3) 多様性の多寡による共生機能の変化の研究:複数の菌株が共存する場合は,宿主の成長及び養分転流について検討する。 (4) 安定同位体標識実験とNanoSIMSによる解析を行い,共生系の宿主と共生菌両者の間でのC・Nなどの物質転流の方向性について検討する。
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Research Products
(12 results)