2012 Fiscal Year Annual Research Report
レーザーマイクロダイセクション法による樹木細胞壁の形成機構の局所解析
Project/Area Number |
23380103
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Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
渡邊 宇外 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (70337707)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安部 久 独立行政法人森林総合研究所, 木材特性研究領域, 研究員 (80343812)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | レーザーマイクロダイセクション / 定量PCR解析 |
Research Abstract |
平成24年度は、「スギ・α-チューブリンモノクローナル抗体の作製と表層微小管の免疫染色観察」および「スギ形成層帯内での各チューブリン遺伝子の局所的な発現定量解析」について検討を行った。 スギ・α-チューブリン遺伝子の塩基配列をもとに翻訳配列と立体構造予測を行った結果、5つのアイソフォームの間で82番目のアミノ酸が互いに異なること、このアミノ酸は単一のチューブリン分子の外側に配置していることが明らかとなった。これらを考慮に入れ、さらにヒトの微小管と微小管結合タンパク質の結晶構造解析データを参照し、スギ・α-チューブリンが微小管を構成している場合の立体構造について詳しく解析した。その結果、82番目のアミノ酸は、微小管の管状構造の内側に配置していることが明らかとなった。微小管の断面の内径や抗体の大きさなどを考慮に入れ検討した結果、抗体が微小管内部に侵入することは困難であり、免疫染色観察が不可能であることが分かった。以上を受け、免疫染色観察によるスギ・α-チューブリンアイソフォームの発現の識別については断念した。 人工気象室で生育させたスギ苗木から形成層試料を採取、急速凍結した後、凍結ミクロトームで形成層を含む凍結切片を作製した。これを凍結乾燥した後、レーザーマイクロダイセクション(LMD)を用いて、形成層部分のみを局所的に回収した。これから全RNAを抽出し、定量PCR法で18S rRNAの発現量について調べた。その結果、現状の方法では遺伝子発現の定量解析に十分な全RNA量を抽出できておらず、検量線の精度が低かった。方法の改善として、より適切な厚さの凍結切片から形成層試料を回収すること、それに必要なレーザーマイクロダイセクションの条件について検討する必要があることなどが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の解析対象であるスギ・チューブリンについて、その遺伝子発現解析を十分な精度で行うことができなかった。これは、解析に必要な細胞の回収量を定めるのに時間を要したことによる。一般に、LMD法により細胞試料を回収するためには、検鏡に供する程度の薄さの切片が適しているとされる。一方、解析対象とする細胞の形成層内の位置範囲を定め、そこから多くの核酸を抽出する場合には、縦断面の凍結切片を使用し、またその厚さを大きくするのが効果的であると考えられる。縦断面切片からLMDで形成層試料を局所的に回収する際には、細胞壁を切削する必要があり、そのためには、レーザーの出力やパルス周波数を大きくする必要がある。しかし、これらの設定値を大きくすると、細胞試料の焦げつきや損傷が多くなり、結果的に有効な細胞試料の回収量が減少することとなった。適切な縦断面の切片厚さとLMDによる切削条件の関係を定めることに時間を要し、これが高い達成度を得られなかった原因と考える。 また、微小管の構造解析結果を受け、免疫染色法によるスギ・α-チューブリンアイソフォームの発現の識別を断念した。高等生物の間ではチューブリンの構造の相同性はかなり高いと考えられるため、ヒトのチューブリンに関する構造解析の結果は十分に参考になると考えられた。スギ・チューブリンの構造はアイソフォーム間で想定以上に類似性が高かったこと、微小管表面部分の構造的特徴の把握に時間が掛かったことが、高い達成度を得られなかったもうひとつの原因と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度において、スギ形成層帯におけるチューブリンアイソフォームの遺伝子発現を十分な精度で定量評価できなかったことから、形成層を含む凍結切片の厚さを変更し、LMD法による形成層試料の回収条件についてさらなる改良などを行う。特に、レーザーの出力とビーム径が縦断面切片試料の切削の良否に与える影響について詳しく検討し、現装置で最も効果的に試料回収が行える条件を決定する。その後、スギ形成層におけるチューブリン遺伝子の局所的な発現定量解析を重点的に行う。 また、タンパク質レベルでのスギ・チューブリンの発現を定量的に解析することを目的とし、安定同位体標識ペプチドを利用し、LC/MSによるチューブリンの定量評価について検討を行う。この方法では、チューブリンの分解産物と類似のアミノ酸配列をもち、かつ炭素および窒素の安定同位体で標識されたペプチドを合成する。これをチューブリン分解産物と混合し、質量分析にかけ、両者のシグナルを比較することで定量評価を行うことができる。この測定方法をLMD法と併用することにより、タンパク質レベルでチューブリンアイソフォームの発現量を局所的に調べることを試みる。 以上の解析を行うことにより、樹木の細胞壁形成過程におけるチューブリンアイソフォームの機能的役割について、考察を行う。また、この解析および考察を行うことにより、樹木の形成層活動の解明におけるLMD法の有効性について、まとめを行う。
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Research Products
(4 results)