2012 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の健康バイオセンシング「さかなドック」の創出に関する研究
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23380122
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
遠藤 英明 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (50242326)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | バイオセンサ / 魚類 / グルコース / 乳酸 / カーボンナノチューブ / 健康診断 / リアルタイム / モニタリング |
Research Abstract |
本研究の目標は,新しい魚類の健康診断法の確立を念頭におき,人間ドックの魚版ともいえる「さかなドッグ」を創出することである.本年度は,昨年度開発したグルコースバイオセンサの更なる測定値の高感度化を目的に,高い導電性を有する新素材「単層カーボンナノチューブ」に着目し,これを用いた新規バイオセンサの開発を試みた.また,魚類の血中乳酸濃度のリアルタイム測定を実現するために,ワイヤレス型乳酸バイオセンサの開発を試みた. 1.カーボンナノチューブを応用した高感度グルコースバイオセンサの製作:魚類の血中グルコース濃度は,魚のストレスを知るための指標として知られている.そこで,白金イリジウム線にカーボンナノチューブを分散させたNafion分散溶液を塗布し,キトサンとフェロセンカルバルデヒドを脱水縮合反応させた後,ここにグルコースオキシダーゼを固定化することによりバイオセンサを作製した.本センサは,昨年度開発したセンサに比べて1.5倍の感度を示した.また,ティラピアを自由に遊泳させた状態で,その血糖値を測定したところ,3日間に渡ってのリアルタイムモニタリングに成功した. 2.魚類の血中乳酸濃度測定のためのワイヤレスバイオセンサの製作:魚類血液中のL-乳酸濃度は,輸送ストレスや薬品暴露で増加することが知られており,近年になって魚類のストレス指標として用いられている.そこで,白金イリジウム線にナフィオンを塗布した後,乳酸オキシキシダーゼを固定化してL-乳酸測定用バイオセンサを作製した.このセンサをティラピアの眼球側面付近の粘膜内部に刺入し,防水加工を施したポテンシオスタット及び送信機を魚体に装着した.その結果,センサによる測定値と実際のL-乳酸濃度との間には良好な相関が認められ,魚を自由に遊泳させた状態でL-乳酸濃度のリアルタイムモニタリングを可能にした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,近年の養殖分野において迅速・簡便な測定法の確立が望まれている検査項目(ストレス度の測定,産卵時期の予測,抗病性の評価等)に対応可能な各種バイオセンサを製作し,これらを用いて魚類の健康度を,魚が遊泳している状態で総合的にモニタリングできるユビキタス・バイオセンシングシステムの構築を目標としている. 魚の健康度の指標としては,血中グルコース濃度の変化が魚類のストレスの度合いや呼吸障害,栄養状態を示すことが明らかにされており,昨年度までの研究において測定値が血中の溶存酸素量に影響されない新規のグルコース測定用バイオセンサを開発することができた.本年度はこのセンサの更なる高感度化を目標に,先の知見を基に新たにカーボンナノチューブを応用することにより,より高感度なバイオセンサを構築することができた.一方,血中乳酸濃度の変化も輸送ストレスや薬品暴露で増加することが知られており,ストレスを知るための重要な測定項目になっている.そこで本年度は,魚の血中乳酸濃度をリアルタイムにモニタリング可能なバイオセンサの製作を試み,これについても新規センサを構築することができた.以上の理由により現在までの達成度は,順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,魚類のストレス指標として現在最も注目されている血中コルチゾル濃度に焦点をあて,これを迅速・簡便に測定できるような非標識イムノセンサの開発に取り組む.また血中総コレステロール濃度の低下も,細菌感染症に対する抗病性の低下を示す重要な指標になることが報告されているため,電子メディエーターと酸化酵素等を用いた,血中の溶存酸素量に影響されない新規メディエーター型総コレステロールセンサの構築に取り組む.さらに,魚体内において長時間に渡って留置可能なバイオセンサの開発を目的に,生体適合性素材を用いた新規バイオセンサの製作も試みる.そして,平成23~25年度までに開発したこれまでのバイオセンサの測定システムとしての検証を総合的に行い,「さかなドック」システムの可能性について検討・評価する.
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