2012 Fiscal Year Annual Research Report
食・農・環境の仕事おこしによる地域再生―村落共同体と市民社会の連帯の日欧比較―
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23380130
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
石田 正昭 三重大学, 生物資源学研究科, 特任教授 (80144228)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
波夛野 豪 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30249370)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 労働者協同組合 / 総合農協 / 社会的経済 / 地域社会 / 脱化石・脱原発 / 有機農業 |
Research Abstract |
ヨーロッパの労働者協同組合については、スペイン、イタリアで現地調査を行った。スペインではモンドラゴングループ、ナバーラ農村観光組合、有機野菜直販協同組合(EHNE-BIZKAIA)、COCOPE(ワイン農協による高齢者福祉施設の運営)、ACOR(製糖協同組合によるバイオ燃料製造)などを現地調査したほか、ヴァレンシア大学法学部イサベル・ヘマ・ファハルド教授からスペインの労働者協同組合法の解説を受けた。また、労働者協同組合のロビー活動を手がけるCEPESからスペインの労働者協同組合運動の現状と課題について情報・資料の提供を受けた。スペインの労働者協同組合の大きな特徴は、労働者が出資し運営する協同組合であっても市場経済で存続しうる企業性、効率性を保持しなければならないということであった。この点はイタリアの労働者協同組合(社会的協同組合)も同様であり、社会的にその存在が認められるためには理念のみならず実践面において事業の継続性が強く要求されている。これらの調査結果は現在整理中であり、前年度のフランス調査の結果を含めて今後論点整理を進めていく。 一方、こうしたヨーロッパの経験を踏まえながらわが国の農業協同組合の社会性と経済性について、今年度は2つの研究成果を世に問うた。一つは『農協は地域に何ができるか』(農文協)、もう一つは『なぜJAは将来的な脱原発をめざすのか』(家の光協会)である。前者は、わが国の総合農協が、地域に根ざした協同組合として、地域社会に責任をもつ協同組合の役割を果たしているかどうかをヨーロッパの「社会的経済」の観点から論じたものである。後者は、雇用や環境、さらにはエネルギー問題に関連して、JAグループが進もうとしている脱化石、脱原発の方向性をドイツの経験を踏まえて評価・検討したものである。研究成果としてともに高い注目を集めている。とくにJAグループでの関心が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度にフランス・ベルギー、2年度にスペイン・イタリア、最終年度にイタリア・ドイツで現地調査を行い、ヨーロッパ諸国における労働者協同組合(社会的協同組合)の成立条件を解明するという当初の研究計画からすれば、本調査研究はほぼ順調に進んでいる。今後は収集された資料・情報の整理とそれに基づく論考の発表を積極的に進めることが求められる。 日本とヨーロッパにおける労働者協同組合の基本的な違いは、その成立基盤をなす地域社会(コミュニティ)の集団的性格の違いによるものが大きく、また、その集団的性格の変化がどのような方向に向かっているのか、すなわち崩壊、再生、創造のいずれの方向に向かっているのかによって規定されていると考えられる。今後はこうした分析枠組みのもとで研究のとりまとめを進めていく。 同時に、わが国の総合農協(JAグループ)の場合、地域社会(コミュニティ)とは農業集落を意味するから、協同組合全体はもとより、一つの農業集落または複数の農業集落をまとめた旧村単位で行われている食・農・環境(エネルギー)の取組みについても、かなり綿密に事例を収集・分析することに成功した。とくに地域社会と直接関係をもつ支店活動の重要性を強調していることに特色がある。それらは『農協は地域に何ができるか』(農文協)、『なぜJAは将来的な脱原発をめざすのか』(家の光協会)の刊行という形で実現された。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は最終年度である。現地調査は大きく2つのプロセスから構成される。 一つは海外調査であり、農村地域で食・農・環境に関する協働活動を展開している労働者協同組合(社会的協同組合)の組織・事業・経営のあり方を解明することである。とくに今年度はイタリアの社会的協同組合A型、同B型の成立条件の解明に注力していく。A型は一般的な労働者協同組合、B型は身体的・精神的にハンディキャップを持った人々のための協同組合である。これについてイタリアならびにわが国の協同組合研究者からも情報・資料収集を行う。また、社会的協同組合という概念の乏しいドイツについても、実質的にその活動を展開しているフェラインとゲノッセンシャフトについて実態調査を進める予定である。 もう一つは国内調査であり、JAグループ、労働者協同組合(ワーカーズコープ、ワーカーズコレクティブ)の協力を得ながら、自助目的のみならず、他助目的の活動のあり方を解明していく。とりわけわが国では、大震災、原発事故を契機に「きずな」「つながり」の拡大が重視されており、こうした視点から地域社会の再生に協同組合がどのような役割を果たしているかを解明する。 以上の海外・国内調査の成果を踏まえて、最終年度のとりまとめを進める。取りまとめに当たっての鍵概念は、アマルティア・センが提示したケイパビリティ・アプローチである。ケイパビリティ・アプローチの有効性は、~したい(行為)、~である(存在)について、実現されたものだけではなく可能性を含めて、その範囲を拡大することが幸せづくり(well-being)の核心をなすという点に求められる。人は可能性を信じた時(希望を見出した時)に生きる力が与えられるが、協同組合が、組合員のみならず地域住民にこの生きる力をどれだけ与えているか、あるいは与えられるかを中心に研究成果をまとめていきたい。
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Research Products
(6 results)