2012 Fiscal Year Annual Research Report
骨軟骨欠損モデル動物を用いた次世代骨軟骨再生医療の検討
Project/Area Number |
23380185
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
三角 一浩 鹿児島大学, 共同獣医学部, 教授 (10291551)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 功一 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50420609)
藤木 誠 鹿児島大学, 共同獣医学部, 准教授 (60305167)
川口 博明 鹿児島大学, 共同獣医学部, 准教授 (60325777)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 骨 / 軟骨 / 再生 / 幹細胞 / 移植 |
Research Abstract |
【脂肪(AT-)または滑膜(SM-)由来間葉系幹細胞(MSC)移植による骨軟骨組織の再生】 ○目的:膝関節の骨軟骨欠損部にAT-MSCの三次元構造体(プラグ)を自家移植して軟骨と軟骨下骨の再生を評価する。 ○方法:3頭のマイクロミニピッグ(S1,S2,S3)を用い,両側大腿骨の滑車溝に直径4mm,深さ6mmの骨軟骨欠損を作出した。右側欠損部には自己由来のAT-MSCによる円柱状プラグ(直径4mm,高さ6mm)を埋植する一方で,左側は無処置(対照)とした。移植後1ヵ月毎にCT撮影を行い,欠損部における骨再生の経過を監視した。S1とS3は移植後6ヵ月,S2は12ヵ月で欠損部の病理組織学的評価を行った。 ○結果と考察:S1とS2のCT検査では,プラグ移植側の欠損部における骨再生が移植後3ヵ月から確認できるようになり,骨欠損はその後も次第に縮小し,12ヵ月後には完全に回復した。しかしながら対照肢の骨軟骨欠損部のCT画像では,6ヵ月及び12ヵ月後においても軟骨下骨の再生は完了しなかった。S3では,いずれの側の膝関節においても欠損した骨軟骨の再生を示唆する所見は認めなかった。S1(移植後6ヵ月)の病理組織検査では,移植部における骨軟骨組織の再生は未だ不完全(表層は厚い線維軟骨組織,深層は骨組織)であったものの,S2(移植後12ヵ月)では欠損部表層の軟骨組織は周囲の正常軟骨と同じ厚さの硝子軟骨が再生されており,深層部には軟骨下骨が発達していた。その一方で,対照肢には充分な骨軟骨の再生像は確認できなかった。S3では,両側の欠損部が全層にわたって脂肪組織で充填されており,軟骨の修復及び軟骨下骨の形成は認められなかった。AT-MSCのプラグ移植による(人工足場を用いない)骨軟骨組織の再生がブタで初めて実証された。 ○SM-MSCの研究では,馬の骨軟骨組織欠損(骨嚢胞症例)に細胞を注入する準備を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
○組織由来の間葉系幹細胞(MSC)移植による骨軟骨組織再生の研究を遂行している。当初計画では,分離培養した脂肪組織由来MSC(AT-MSC)塊であるスフェロイド(小球)を760個積重ねて三次元構造体(プラグ)を作成する過程が,大きな難所であることが想定された。しかし,共同研究者の協力を得ながら,細胞構造体の形成・培養技術が初年度のうちに確立され,平成23年度末にブタへのプラグ作成手術を実施することができた。引き続き,平成24年度は移植部分の画像診断を定期的に行った。術後毎月CT画像を得て,軟骨下骨の再生を継続的に監視した。幸運なことに,3頭中2頭のブタにおいて順調な骨再生を確認できた(残る1頭では移植部で骨化が進まず,最終的に骨軟骨再生を認めなかった)。この2頭のブタは,それぞれ移植後6ヵ月と12ヵ月で病理解剖した。いずれも予め想定された再生過程と一致した病理学的所見を得ることができた。 ○これまで2年間のデータは,すでに日本獣医学会で2回,途中経過を報告した。また平成24年度末にはこれまでの最終データを日本再生医療学会において(国際的な講演を集めたセッションで)口頭発表し,好評を得た。 ○現在は,論文作成を進める一方で,さらに2頭のブタでさらにサイズの大きな骨軟骨欠損部にAT-MSCのプラグ移植手術を行い,その後の経過をCT画像で追跡している。最終年度となる平成25年度には,それらの結果を得るのを楽しみにしている。 ○馬の細胞を用いた研究では,AT-MSCに加えて滑膜組織由来MSC(SM-MSC)が骨軟骨の再生には好都合な細胞源であることを見出している。すでにSM-MSCの分化誘導により軟骨シートを作成するところまで到達した。軟骨欠損モデルへの試験的移植手術に加えて,自然発生性の骨嚢胞(骨軟骨欠損を伴う)症例から分離培養したSM-MSCを欠損部に注入・移植する準備を整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
○ブタを用いた脂肪組織由来MSC(AT-MSC)のプラグ移植による骨軟骨再生研究では,当初計画した内容は順調に遂行されており,予想した成績をすでに得ている。ウマについては,脂肪(AT-)よりも滑膜(SM-)由来の幹細胞が関節の骨軟骨再生により適していると考え,SM-MSCを用いた移植を目標に研究を進めている。本研究計画に,大きな変更あるいは遂行上の問題点は特にないと考えている。 ○今後は,移植部における骨軟骨再生の長期的な(2年,3年,5年後の)予後・経過を観察する必要があると考えている。これまでの研究結果では,移植後12ヵ月において,硝子軟骨と軟骨下骨の再生を初めて認めている。しかしながら,更に詳細に検討を進めていくと,周囲正常組織と移植部の再生組織との間には微細な基質構造の違い(コラーゲンの配向性等,再生組織における構造の未成熟さ)が残っている。この違いがどれくらいの時間を要して正常組織へ復していくのか,再生組織の成熟過程を確認しなければならないと考えている。このような実験は,今まで以上に期間と経費を要するものの,この再生技術が実際の医療現場へと普及していくためには,回避できない検討課題である。 ○また研究には高価な実験用ブタを必要とすることから,本研究における使用頭数は必要最小限に止めている。しかし臨床的に優良かつ安全な治療手段であることを示すためには,これまでの実験に用いたブタの数倍から十数倍の頭数を用いた動物実験を行い,再現性と信頼性のある成績を得なければならない。次年度以降,新たに大規模な研究計画を立案し,提出する必要があると考えている。
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