2012 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体遺伝子の選択的発現制御システムの解明とその活用
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23380205
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
小林 裕和 静岡県立大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (80170348)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 転写制御 / タンパク質リン酸化 / 葉緑体 / 植物 |
Research Abstract |
光の強度および波長 (赤色あるいは昼光色) を感知した葉緑体遺伝子発現の制御に介在する機構を解明する。本年度は、以下の研究を実施した。 ① シグマ因子 (SIG) をリン酸化するタンパク質キナーゼの同定:コムギ無細胞タンパク質合成系にタンパク質間相互作用検出系およびリン酸化アッセイを適用し、SIG1をリン酸化するタンパク質キナーゼを2種に絞り込んだ。これらの遺伝子のシロイヌナズナ欠失変異系統をArabidopsis Biological Resource Center (ABRC) から入手し、赤色光 (700~710 nm) を感知した葉緑体遺伝子発現を解析した。 ② リン酸化SIG1を脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定:リン酸化SIG1タンパク質とタンパク質ホスファターゼの相互作用は弱いため、タンパク質相互作用に基づく戦略に限界があることが判明した。したがって、タンパク質ホスファターゼ遺伝子の欠失変異系統候補を検索し、ABRCには142種類の遺伝子に対する系統が登録されていることを見いだした。これらを入手し、自家受粉2世代目にタンパク質ホスファターゼ遺伝子欠失ホモ接合系統を選抜した。 ③ 葉緑体遺伝子の選択的発現制御系の活用:SIG1のリン酸化により転写が抑制されるpsaA遺伝子のプロモーターを葉緑体形質転換が可能なタバコおよびレタスに活用する。そのために、レポーター遺伝子として、Chroma-Glo Luciferase (Promega) のCBRluc (赤色) とCBG68luc (緑色) を用いた。これらが葉緑体の一過性発現において有効であることを見いだした。 ④ 栽培植物種への応用:チャは栽培時の遮光により玉露あるいは白葉茶になる。チャ葉3' EST高速シーケンス解析 (FLX+) を行い、独自のデータベースを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」において記載した研究項目 (①~④) は、平成24年度の交付申請書の「本年度の研究実施計画」と対応する。今後の課題としては、以下が挙げられる。 ① シグマ因子 (SIG) をリン酸化するタンパク質キナーゼの同定:コムギ無細胞タンパク質合成系に内在するタンパク質キナーゼがSIG1をリン酸化する可能性を見いだしたため、SIG1-GST (グルタチン-S-転移酵素) に結合したタンパク質キナーゼを回収し、MALDI-TOF-MSによりタンパク質キナーゼを試みた。回収されたタンパク質の量が少なく、同定には至らなかった。 ② リン酸化SIG1を脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定:pulse amplitude modulated (PAM) 蛍光測定および遅延蛍光により表現型が異常になったものを選抜する予定であった。遅延蛍光の評価においては、それ自身が新規であり、その理論構築に時間を要した。 ③ 葉緑体遺伝子の選択的発現制御系の活用:葉緑体遺伝子発現をレポーター遺伝子によりモニターする評価系を構築した。RNAiの活用等は実用化研究となるため、今後の課題とする。 ④ 栽培植物種への応用:チャ葉3' EST高速シーケンス解析 (FLX+) データベースの構築は終了した。これに基づくDNAマイクロアレイの作製は平成25年度の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
①シグマ因子 (SIG) をリン酸化するタンパク質キナーゼの同定:コムギ無細胞タンパク質合成系を用いた分子間相互作用およびリン酸化実験による探索の結果、2種のタンパク質キナーゼを同定した。これらをSOPK (SIG1 protein kinase) と命名し、SOPK1およびSOPK2とする。これらの細胞内局在部位を緑色螢光タンパク質 (GFP) を用いて解明する。さらに、活性ドメインおよび結合ドメインを明らかにするため、いくつかの領域に分けてタンパク質を合成し、SIG1との結合実験およびSIG1のリン酸化実験を行う。 ② リン酸化SIG1を脱リン酸化するタンパク質ホスファターゼの同定:リン酸化SIG1のタンパク質ホスファターゼをSOPH (SIG1 protein phosphatase) と命名する。シロイヌナズナのタンパク質ホスファターゼ候補の遺伝子欠失変異系統として、ABRCには142種の遺伝子に対する系統が登録されている。これらのうち、119種の遺伝子産物は、葉緑体への局在の可能性が予測される。SOPH遺伝子欠失変異系統は、700~710 nm光の照射に応答できず、PS I形成が抑制されないことが想定される。遅延蛍光を指標にした 「非破壊迅速光合成評価系」 を用い、SOPH遺伝子欠失変異系統を選抜する。 ③ 葉緑体遺伝子の選択的発現制御系の活用:今後は実用化研究へとシフトさせる。 ④ 栽培植物種への応用:チャは栽培時の遮光により玉露茶あるいは白葉化茶になる。独自に構築したチャ葉ESTデータベースに基づいて作製した49,256のコンティグ (世界最高水準の網羅率) からなるeArray システム (Agilent Technologies) を活用する。白葉化チャ葉における遺伝子発現を包括的に解析し、光感知葉緑体遺伝子発現機構の解明の糸口とする。
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