2013 Fiscal Year Annual Research Report
植物における膜結合型転写因子による遺伝子発現制御機構の解明
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23380206
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
小泉 望 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (20252835)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺伝子 / 植物 / 転写因子 / シロイヌナズナ / 小胞体ストレス応答 |
Research Abstract |
シロイヌナズナの小胞体ストレス応の制御に関わる膜結合型転写因子(Membrane-bound Transcription Factor:MTF)であるbZIP60とbZIP28の活性化機構について研究をおこなった。bZIP60は、本研究開始後、当初想定していたタンパク質レベルでの切断により活性化されるのではなく、小胞体ストレスセンサーであるIRE1により触媒される細胞質スプライシングを介して活性化されることが明かとなった。従って、本年度はこの細胞質スプライシングの生化学的解析を行った。IRE1のRNaseドメインを含む領域を大腸菌内で発現、精製した後、in vitroで合成したbZIP60 mRNAのスプライシングを受ける領域を実際に切断することを確認した。 bZIP28に関しては、内在性のbZIP28タンパク質を認識する抗体を作製し、bZIP28が小胞体ストレス応答によりタンパク質レベルで切断されることの検出に初めて成功した。bZIP28の切断にはS1P、S2Pの2つのタンパク質が関わると考えられていたことから、S1PおよびS2Pの遺伝子破壊株におけるbZIP28タンパク質の切断を調べたところ、S1P破壊株ではbZIP28の切断に影響は見られなかった。一方、S2P遺伝子破壊株では、bZIP28の切断が阻害された。しかし、完全に切断が阻害されるのでは無く、前駆体より短いタンパク質が検出され、bZIP28の切断にはS2P以外のプロテアーゼも関わることが強く示唆された。 さらに、サリチル酸処理により、bZIP60の細胞質スプライシングを介した活性化とbZIP28のタンパク質レベルでの切断が起こることが確認され、サリチル酸処理により小胞体ストレス応答の分子装置が働くことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シロイヌナズナの小胞体ストレス応答に関わるbZIP60とbZIP28は植物の膜結合型転写因子として最も研究が進んでいる。bZIP60は当初、小胞体膜に結合した不活性型タンパク質がプロテアーゼにより切断され核へ移行し活性型として機能すると考えられていたが、本研究において、IRE1による細胞質スプライシングを介して活性化することが明かとなった。この細胞質スプライシングの分子機構は、酵母、動物、植物で共通性がある一方で、異なる点も多い。本年度は生物種間での共通点と相違点をまとめた総説を出版することができた。 また、酵母では細胞質スプライシングに関与する分子はほぼ全て明らかとなっているが、より複雑な多細胞生物である動物、植物ではIRE1以外の分子、具体的には切断されたmRNAの連結に関わる分子は同定されていない。本研究では、植物における細胞質スプライシングの解析系の構築を試み、人工的に作成したIRE1およびbZIP60 mRNAを供して、RNA切断を検出することに成功した。さらに、RNAの連結に関わる分子の同定も進め、試験管内での連結活性を検出することができた。 一方、bZIP28については、これまで内在性のタンパク質を検出した例が無く、遺伝子導入によるFLAGやGFPとの融合タンパク質の解析のみで議論が行われてきた。本研究では、bZIP28を認識できる抗体を作製することで、初めてbZIP28タンパク質の検出に成功した。内在性bZIP28タンパク質を検出できるのは世界でも研究代表者の研究グループのみである。平成24年度は、bZIP28に関しては進展が少なかったが、25年度はこのように検出に成功するとともにS1P、S2Pとの関わりについても進展が見られた。 こられの結果が論文発表あるいは学会発表に至っていないが、総合的に判断して研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は本研究の最終年度であることから、2つの膜結合型転写因子bZIP60とbZIP28の活性化機構の解明についてある程度の目途をつけたい。bZIP60については、細胞質スプライシングの分子機構を明らかとし、論文としたまとめることを目指す。具体的には25年度に確立したインビトロでの細胞質スプライシングの再構築系を用いて、細胞質スプライシングに必要な配列の同定、切断されたRNAの連結に関わる分子の機能解析をおこなう。この分子については、インビトロの実験だけでなく、形質転換植物を用いて、その局在やIRE1との相互作用等を検討する。 bZIP28の活性化については、S1PとS2Pの関与を明確にすることに重点を置く。S2Pが関与することは明らかであるが、S1Pの関与はS1P遺伝子破壊株の解析からは否定的に考えられるが、より明確な検証をおこなうためにS1PとS2Pの二重遺伝子破壊株を作成し、この植物におけるbZIP28の活性化を調べる。 またサリチル酸処理によりbZIP60とbZIP28の両方が活性化されるという現象を確認している。この発見についても論文として公表することを目的とする。
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