2012 Fiscal Year Annual Research Report
MAPキナーゼシグナル制御機構の解明とケミカルゲノミクスへの展開
Project/Area Number |
23390021
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
杉浦 麗子 近畿大学, 薬学部, 教授 (90294206)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
喜多 綾子 近畿大学, 薬学部, 助教 (00388498)
村岡 修 近畿大学, 薬学部, 教授 (20142599)
藤原 俊伸 公益財団法人微生物化学研究会, その他部局等, 研究員 (80362804)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | MAPキナーゼ / カルシニューリン / ゲノム創薬 / ケミカルバイオロジー / 分裂酵母モデル生物 |
Research Abstract |
マップキナーゼ(MAPK)シグナルは細胞増殖や癌化に重要な役割を果たすことから、その制御機構の解明は、癌化の理解に直結する重要な研究課題である。本年度は以下の成果をあげた。 【遺伝学的アプローチによるPmk1 MAPKシグナル制御因子の網羅的探索】MAPKとカルシニューリンの塩ストレスにおける拮抗的表現型を利用し、MAPKの抑制因子と活性化因子を網羅的にスクリーニングした。分裂酵母のノックアウト細胞コレクションを用いてカルシニューリンの特異的阻害薬であるFK506を添加した高塩培地存在下で生育可能な遺伝子ノックアウト細胞を選択した。現在、100個程度の遺伝子群がMAPKシグナルやカルシニューリンシグナルの制御に関わるという予備的な成果を得た。これらの細胞においては、細胞内シグナル伝達、タンパク質分解、RNA代謝などの細胞機能に関わる遺伝子群の機能が低下していることが明らかとなった。また、FK506を用いたケミカルゲノミクスの手法により、細胞内輸送に関わるクラスリンアダプターAP-1複合体およびそのアクセサリータンパク質を同定し、これらの遺伝子群のGolgi/endosomeにおける働きを明らかにした。 【MAPKシグナルを標的としたケミカルゲノミクス】カルシニューリンノックアウト細胞はMAPK経路を阻害することにより高塩濃度培地で生育可能になるという「表現型」を利用し、MAPKシグナルの阻害薬を探索する系を確立している。本年度はこのような手法により同定された化合物の一つである新規糖脂質をAcremomannolipin Aと命名し、構造決定と全合成に成功した。また、Acremomannolipin AのCa2+シグナルに与える影響について解析を行なった。また、MAPキナーゼ構成因子の高等生物ホモログのノックアウト細胞、ノックアウト生物作成に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1) MAPKシグナル制御因子の同定に関してノックアウト細胞コレクションを用いることにより、当初の予想を上回る100個程度の遺伝子を同定することができた。これらの原因遺伝子の大半は高等生物にも相同遺伝子が存在し、普遍的なMAPKシグナル制御のメカニズムを提唱できる基礎的な成果が得られた。 2) カルシニューリンの特異的阻害薬であるFK506を用いたケミカルゲノミクスにより、クラスリンアダプター複合体を介する細胞内輸送システムとカルシニューリン/MAPKシグナルのクロストーク機構を提唱できた。 3) ケミカルゲノミクスの手法を駆使した新規Ca2+シグナル調節薬としてAcremomannolipin Aの構造決定と全合成に成功した。このような天然物から探索、同定された新規糖脂質がシグナル伝達の調節に関わるというのは初めての報告である。 4) 上記の手法で同定されたMAPKシグナル制御遺伝子群の高等生物ホモログのノックアウト細胞、ノックアウト生物の作成に着手し、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 第一次スクリーニングで得られた100個程度のMAPKシグナル制御因子群が、どのようなメカニズムでMAPKシグナルの調節に関わるのか、あるいはMAPKによって活性化されるのかを明らかにする。 2) 高等生物においても普遍的に存在する因子に関しては、ホモログ(相同因子)のクローニングやノックダウンを行い、モデル生物を用いて見出された現象が高等生物にも外挿可能か否かを検証する。 3) Acremomannolipin Aを始めとするヒット化合物のケミカルゲノミクスを行う。具体的には化合物添加時の遺伝子発現のプロファイルを明らかにするとともに、標的遺伝子群の発現制御機構を解析する。また、化合物に標識化を行うことにより、細胞内局在を可視化する。 4) 高等生物におけるMAPKシグナル制御因子群をノックアウトした細胞や生体における発がん率の変化や血管形成の異常の有無などを検証する。さらに、これらのノックアウト細胞において3)で見出したヒット化合物の効果を調べる。
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