2012 Fiscal Year Annual Research Report
環境化学物質が酸化ストレスを介してエピジェネティック変化を誘導する機序の解明
Project/Area Number |
23390166
|
Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
野原 恵子 独立行政法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 室長 (50160271)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐野 友春 独立行政法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 主任研究員 (10178808)
青木 康展 独立行政法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 副センター長 (20159297)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 能動的DNA脱メチル化 / 低メチル食 / 酸化的DNA損傷 / グローバルDNAメチル化量 / Tet酵素 |
Research Abstract |
1)低メチル食投与による能動的脱メチル化経路の変動;昨年度、マウスへの低メチル食投与が肝臓の5-methylcytosin (5meC)量を低下させ、同時に酸化的DNA損傷を増加させることを明らかにした。そこで5meC低下への能動的脱メチル化の関与を検討した。能動的脱メチル化に関与するTet酵素、およびTdgやApe1などの塩基除去修復酵素群の発現を検討した結果、低メチル食群においてTet2, Tet3および Tdg, Ape1が有意に増加することをみいだした。以上の結果は、低メチル食が能動的脱メチル化経路を活性化してDNAメチル化を低下させるという新規の機序を示唆した。 2)Nrf2の活性化:肝臓組織より核画分と細胞質を分離しNrf2の局在を調べた結果、低メチル食によってNrf2の核での増加が認められ、低メチル食投与による酸化ストレス誘導を介したNrf2の活性化が示された。低メチル食で発現増加したTet3のプロモーター領域にはNrf2結合配列が存在し、Nrf2によるTetの直接的な制御の可能性も考えられた。 3)酸化的DNA損傷とDNA低メチル化:CG配列のGの酸化的損傷により生成した8OHdGが、Dnmt3bの結合を阻害し隣接するCのメチル化を阻害することがin vitroの研究で報告されている。そこでマウス肝臓の5meCと8OHdG含量の精密分析の結果を解析したところ、低メチル食群では対照群と比較して8OHdGがグアニン10<sup>7</sup>塩基あたり2塩基多いのに対して5meCの低下はシトシン10<sup>3</sup>塩基あたり2塩基で、5meCの変化量は8OHdGの変化量の約1万倍であった。この結果は5meCの減少に対する8OHdGの生成を介したDnmt3bの結合阻害の寄与は大きくないことを示唆した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肝臓で酸化ストレスが強く誘導される低メチル食投与によって、能動的DNA脱メチル化酵素の誘導がかかるという新規の知見を得、酸化ストレスとDNAメチル化の関連に関して研究が進展した。また酸化ストレスによって核移行する転写因子であるNrf2が、低メチル食投与によって核移行していることを明らかにしたことから、今後この転写因子と能動的DNA脱メチル化酵素群との関連も探りたい。 レトロトランスポゾンL1遺伝子のプロモーター領域における突然変異とDNAメチル化解析についても検討を行ったが、対照群と低メチル食投与群の間で差はみいだせなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、酸化ストレスが能動的DNA脱メチル化経路(Tet-Tdg経路)を促進するという新たな機序の可能性が示された。本年度は酸化ストレスによるTet-Tdg経路の促進の機序をin vitroの実験系で明らかにする。 1)5hmCのLC/MS/MSによる定量法の確立:最近、5メチルシトシン(5meC)からTetの作用によって生成する5ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)がTetによる脱メチル化を促進することが報告された。5hmCの精密測定法を確立するために、安定同位体標識5hmCを合成して標準物質とし、LC/MS/MSによって5hmC量を精密測定する条件を確立する。 2)酸化ストレスによるDNA脱メチル化促進の証明:マウス肝癌細胞株等に活性酸素種(ROS)を生産する酵素であるNADPH oxidaseをトランスフェクションし、DNAメチル化酵素(Dnmt)や脱メチル化経路で働く酵素(Tet, Tdg)の発現量の定量、5meC, 5hmeCの精密測定、8OH-dGのHPLC-ECDによる測定を行い、酸化ストレス生成とDNAメチル化変化の関係を明らかにする。 3)酸化ストレス生成からDNAメチル化変化に至る分子機序:NADPH oxidaseのトランスフェクションによってDNAメチル化に変化がみられた条件において、トランスフェクションなしの細胞との遺伝子発現の差をマイクロアレイを用いて網羅的に解析し、特に脱メチル化酵素の発現変化への関連が予想される遺伝子を抽出する。siRNAによる遺伝子発現量の抑制や遺伝子のトランスフェクションによって、これらの遺伝子の関与を明らかにし、さらにタンパクレベルでの検討を加える。 以上の検討によって、酸化ストレスからDNAメチル化変化につながる新たな作用機序を提案する。
|
Research Products
(22 results)