2012 Fiscal Year Annual Research Report
免疫学的介入による心筋梗塞後リモデリング予防法の開発
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23390217
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐野 元昭 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30265798)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 心筋梗塞 / 心不全 / 免疫 |
Research Abstract |
樹状細胞(Dendritic cell:DC)の心筋梗塞後左室リモデリングにおける役割を、ジフテリア毒素(DT)によってCD11c陽性細胞すなわちDCを選択的に除去できるCD11c-DTRマウスの骨髄を放射線照射後の野生型(WT)マウスに移植した骨髄移植モデルを用いて検討した。DTを投与したDC-ablationマウスでは梗塞後心筋にDCの浸潤を認めず、左室リモデリングが増悪した。DC-ablation マウスではday7の梗塞部位でLy6chigh monocyte/macrophageの浸潤が増加し、向炎症性サイトカインの発現亢進、MMP-2や MMP-9の活性化が観察され、反対にLy6clow monocyte/macrophageの浸潤が減少し、抗炎症性サイトカインIL-10の発現は低下していた。adoptive transferを行い、左室リモデリングの増悪がDCを除去したことによることを確認した。IL-17産生細胞は心筋梗塞巣では90%以上がγδT細胞から分泌される。IL-17-KOマウスやTCRγδ-KOマウスでは、梗塞後2日目でMMP1,3,9, MCP-1, TNFα, IL-1β, IL-6の発現は野生型マウスと差がない。この結果は、IL-17産生性γδT細胞は梗塞早期の炎症、損傷治癒機転には影響を及ぼさないことを意味する。一方で、梗塞後7日目以降では、IL-17はCXCL1を介して好中球の浸潤を遷延化させ、マクロファージに対しては、向炎症性(M1)>損傷治癒(M2)へ傾かせ、線維芽細胞に対しては増殖、collagen産生を促進させ、炎症の慢性化、臓器の破壊を促進させる方向に作用している。急性期の炎症反応(=損傷治癒機転)には影響を及ぼさず、炎症の遷延化過程に深く関与するIL-17産生性γδT細胞は心筋梗塞後心不全発症予防の治療標的として有望である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究を通じて、心筋梗塞後の炎症過程を免疫学的に検討するための環境を整備できただけでなく、心筋梗塞後の心筋における免疫細胞浸潤のダイナミックスを網羅的に解析し、今後の研究の基盤となる基礎データの獲得が順調に進んでいる。加えて、当初の目標であった樹状細胞(Dendritic cell:DC)の心筋梗塞後左室リモデリングにおける役割を、ジフテリア毒素(DT)によってCD11c陽性細胞すなわちDCを選択的に除去できるCD11c-DTRマウスの骨髄を放射線照射後の野生型(WT)マウスに移植した骨髄移植モデルを用いて検討した結果、DCが過度な炎症を抑制して左室リモデリングを予防する方向に作用する事を見出し論文化して報告した(Circulation. 2012 Mar 13;125(10):1234-45.)。さらに、IL-17産生細胞は心筋梗塞巣では90%以上がγδT細胞から分泌されることを発見し、IL-17-KOマウスやTCRγδ-KOマウスを駆使して急性期の炎症反応(=損傷治癒機転)には影響を及ぼさず、炎症の遷延化過程に深く関与するIL-17産生性γδT細胞は心筋梗塞後心不全発症予防の治療標的として有望であることを示し、こちらも論文として報告した(J Am Heart Assoc. 2012 Oct;1(5):e004408.)。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の心不全治療の根幹は神経体液性因子(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系や交感神経系)の過剰な活性化を阻害することにあり、これによって慢性心不全患者の予後は改善されてきた。しかし、治療成績は十分満足のいくものではなく、心不全患者は増加の一途をたどり、免疫学的介入による新規心不全治療法の開発に期待がよせられている。免疫応答は各臓器を構成する実質細胞と間質に局在する免疫細胞との細胞間コミュニケーションによって惹起され、組織の障害と修復という二面性を併せ持つ。本研究では、心不全の原因として最も重要な心筋梗塞による心不全モデルを用いて、ストレスによる炎症の慢性化が心臓や肺のリモデリングを促進させて心不全を発症させていく分子機序を、自然免疫細胞の極性の制御に着目して解明していく。特に、心筋梗塞後の炎症過程を終焉に向かわせ心筋リモデリングを抑制する機序(樹状細胞やマクロファージ)、梗塞後亜急性期以降活性化されて炎症の遷延化、非梗塞部位の線維化を介して心筋リモデリングを増悪させる機序(IL-17産生γδT細胞)、を明らかにして心不全の予防や治療、創薬につながる新たな医療基盤の創出を目指す。平成25年度は、3年間の研究計画の最終年度にあたる。今年度は、創薬につながる新たな医療基盤の創出をめざして、実臨床で行われる心筋梗塞後の再灌流療法が心筋梗塞後の炎症過程にどのような影響を及ぼすのかを詳細に検討して、免疫学的介入のtherapeutic window を同定することを目標とする。
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Research Products
(10 results)