Research Abstract |
アルツハイマー病(AD)患者の90%以上では脳表の血管にβアミロイド(Aβ)が沈着する脳アミロイド血管症(CAA)を合併している。さらに,Aβ沈着血管の近傍には,肉眼では確認できない微小な脳梗塞(皮質微小梗塞)が散在している。皮質微小梗塞は,脳低灌流領域である分水嶺域を中心にみられることから,皮質微小梗塞の形成にCAAと脳低灌流が協働的に作用するという仮説をたて,ヒト剖検脳とCAAモデルマウス(Tg-SwDIマウス)を用いて検証を行った。 ヒト剖検脳の皮質微小梗塞密度は,CAA軽度群では0.113/cm^2,中等度群では0.584/cm^2,高度群では4.370/cm^2であり,CAAの重症度により直線的に増加した。皮質微小梗塞密度はAD群と非AD群で有意差がなかった。多変量解析では7つの変数(年齢,疾患,動脈硬化,老人斑,神経原線維変化,CAA,白質病変重症度)のうち,CAA重症度のみが唯一,皮質微小梗塞密度と有意な相関を示した(p=0.0022)。またこのヒト剖検脳データと一致して,Tg-SwDIマウスでは脳低灌流侵襲後に,一部で微小梗塞が再現され,Aβの血管壁への沈着がより早期に観察された。一方,偽手術群では32週齢まで微小梗塞は一切みられなかった。12週間の脳低灌流後,Tg-SwDIマウスでは脳血流が手術前と比較し26%低下していたが,野生型マウスでは15%にとどまっていた。 皮質微小梗塞の密度はCAAの重症度と相関していたが,老人斑や神経原線維変化の重症度には相関しなかった。脳低灌流侵襲を加えたTg-SwDIマウスの脳血流回復が不良であったことより,Aβの沈着が,血管機能を障害し,血管支配領域の梗塞に至ったものと推察された。CAAは認知症への寄与危険度が高いことがすでに報告されており,関連して起こる皮質微小梗塞も高齢者における認知機能低下の重要な背景病理である可能性がある。
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