2012 Fiscal Year Annual Research Report
ATL細胞の癌遺伝子中毒と「ポリコーム-miRNA-シグナル伝達分子」回路の異常
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23390250
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邉 俊樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30182934)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内丸 薫 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (60251203)
中野 和民 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (60549591)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 血液腫瘍学 / HTLV-1 / NF-κB / エピジェネティクス / シグナル伝達 |
Research Abstract |
①内丸らが開発したTSLC1/CD7プロファイリングによる感染細胞の分取法を用いてATL細胞及び感染不死化細胞の網羅的発現解析を行い、不死化から腫瘍化へ段階的に異常を示す複数の遺伝子を同定した。miR-31は感染不死化細胞においてすでに大きく減少しており、感染細胞の段階でエピジェネティックな異常が誘導されていると考えられた。②T細胞の複雑な活性化メカニズムとEZH2のプロモーター構造の関連に注目し、T細胞受容体(TCR)からの活性化シグナルがEZH2の発現誘導に重要であることを明らかにした。さらにNF-κBシグナルの恒常的な活性化がATLにおけるEZH2の過剰発現を誘導していることを明らかにした。③Taxを健常者PBMC及びT細胞に導入し、継時的な観察からTaxは宿主のエピジェネティクスに影響を与えて増殖や細胞死抵抗性に寄与していることを明らかにした。④miR-31の新規標的遺伝子としてPKCεを同定した。polycomb依存的なmiR-31の抑制がPKCεの発現を増強し、ATL細胞の増殖に寄与していることを明らかにした。⑤独自の網羅的解析からpathway解析を行い、ATLの生存シグナルにp38が関わっていることを明らかにした。p38のリン酸化を阻害することにより、NF-κBの活性化が低下し、細胞を強く誘導することがわかった。⑥ATL細胞で高頻度に起こる特徴的なHelios遺伝子のスプライシング異常を同定し、その機能的意義についても明らかにした。結果はCancer Science誌に報告した。⑦B細胞リンパ腫においてもmiR-31を含む複数のmiRNAの抑制が腫瘍細胞の特徴であることを明らかにした。miRNAの減少はリンパ腫細胞の増殖に必須なBCRシグナルやPI3K-Aktシグナルなどの各因子の発現レベルを増強し、シグナル活性化の底上げに関連することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々が以前に公開した網羅的解析データから生じた新たな複数の疑問に対して体系的に解析を進め、ATLにおける新たな分子病態が明らかとなった。この中には、miR-31の発現減少やEZH2の過剰発現が持つ生物学的インパクトが強く示唆されており、提唱したPolycomb-miRNA-NF-κBの関係がATLに分子背景に重要であることがさらに支持された。またmiR-31の新規標的遺伝子やEZH2の制御機構などの新たな知見がこれらの関係性の新しい側面と可能性の大きさを示した。 当初の計画と異なり、3年目に計画していたHTLV-1感染とエピジェネティック制御の関係や、他の腫瘍細胞などの応用研究が飛躍的に進んだ。外来因子による宿主エピゲノムへの影響は宿主の生存や多様性を考える上で重要な発見であった。またB細胞リンパ腫におけるmiRNAの減少とシグナル伝達の活性化は応用研究として今後さらなる展開が期待される。 2年目は特にATLの分子レベルの理解が進展し、また複数の総説をまとめることでATLの特徴的な分子レベルの全体像と問題点が浮かび上がった。miRNAやエピジェネティックに加えスプライシング制御の破綻という新たな分子異常の重要性も示唆された。 当初2年目に予定していた現象レベルの解析は目標の70%程度の達成であるが、予定外の分子メカニズムの解明もあり、最終的には十分に目標を達成できると考えられる。これまでの成果を活かすことにより、最終年度において未達成事項を補足し、分子レベルだけでなく病気や正常細胞の背景の一部を明らかにできると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの分子レベルでの様々な成果をとりまとめ、より複雑系を研究対象とし臨床応用への可能性を検討する。 ①各分子の関係の一般化へ:これまでの結果から、polycomb、miR-31、NF-κBはいずれも免疫担当細胞において重要な因子であることは明白である。また様々ながん細胞で共通してこれらの関係性が破綻している状況的証拠は多数にのぼる。最終年度はエピジェネティック、miRNA、シグナル伝達という広い視点でATLやB細胞リンパ腫をモデルに検討を進め、さらに複雑なシグナルの制御メカニズムの存在を明らかにする。またゲノム異常によって引き起こされる様々なシグナル活性化に対してエピゲノムの異常がどのような役割を持つかを検討する。 ②EZH2標的遺伝子の同定と臨床応用へ:EZH2の発現誘導メカニズムを明らかにしたことは大きな成果であった。HTLV-1感染不死化細胞におけるEZH2の過剰発現は、感染細胞の段階でEZH2に依存したエピジェネティックな異常が感染細胞の維持に重要であることを強く示唆している。そこで本研究の意義をさらに広げるために、T細胞におけるEZH2の標的遺伝子を網羅的解析により決定する。さらに最近急速に開発が進んでいるEZH2に対する特異性の高い次世代の阻害剤を用いて腫瘍細胞及び感染細胞に対する効果検討を行う。 ③Taxによる宿主エピゲノムの異常の全体像:ウイルスによる宿主エピゲノムへの影響は非常に重要な発見であった。そこで最終年度はTaxによって得られた不死化細胞のエピジェネティックな変化についてChIP-on-chipを用いて網羅的に検索し、ウイルス感染が宿主に与えるインパクトを再検討する。さらに正常T細胞やATL細胞についても同様に解析することにより、正常細胞、感染不死化細胞、そして腫瘍細胞への変遷をエピジェネティックの視点から検討する。
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[Journal Article] Adult T-cell leukemia cells are characterized by abnormalities of Helios expression that promotes T-cell growth2013
Author(s)
Asanuma S, Yamagishi M, Kawanami K, Nakano K, Sato-Otsubo A, Muto S, Sanada M, Yamochi T, Kobayashi S, Utsunomiya A, Iwanaga M, Yamaguchi K, Uchimaru K, Ogawa S, Watanabe T
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Journal Title
Cancer Sci
Volume: 104(8)
Pages: 1097-1106
DOI
Peer Reviewed
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