2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23390272
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
久保田 健夫 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (70293511)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒澤 尋 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (10225295)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | エピジェネティクス / エピゲノム / 自閉症 / 神経疾患 / iPS / レット症候群 / 遺伝子 / 治療 |
Research Abstract |
【具体的内容】平成24年度に実施した研究成果は以下の2点である。 1.iPS細胞の神経分化サンプルの特性評価 [担当:黒澤、久保田]:前年度、PIポリアミドによる遺伝子特異的治療法開発の対象となる患者iPS細胞を作製し、今年度はその特性評価を行った。その結果、レット症候群(MECP2に遺伝子変異に起因する疾患)がX連鎖遺伝病であることから、X染色体不活化現象に従い、正常MECP2に遺伝子を有するX染色体が活性化したiPS細胞(正常iPS細胞)だけからなる細胞株と変異MECP2遺伝子を有するX染色体が活性化したiPS細胞(病的iPS細胞)だけからなる細胞株が樹立され、神経分化させてその性質を比較したところ、病的iPS細胞由来の神経細胞で異常なグリア細胞マーカーの発現が見られることが判明した。 2.レット症候群の重症化に関連する遺伝子の同定 [担当:久保田]:PIポリアミドによりエピゲノム修復パターンを修復し、適正な遺伝子発現の回復の対象遺伝子として、前年度、MeCP2の標的遺伝子である神経細胞表面NMDA受容体輸送因子(LIN7A)と神経細胞接着因子(PCDH7とPCDHB1)を同定した(BMC Neurosci 2011に発表)。今年度はさらなる修復対象遺伝子として、本症候群の骨格異常の重症化との関連が推測される遺伝子(MKX)と神経機能異常の重症化との関連が予測される分子(CKB, FYM)の遺伝子を同定した(PLoS ONE 2013(印刷中)に発表)。 【本研究の意義】「Rett症候群の神経病態に関わる遺伝子のエピゲノム状態を修復し、適正な遺伝発現状態に是正し、神経機能の回復を検証する」ことである。 【本研究の重要性】「栄養物質や薬物によるヒトゲノム(全遺伝子)を対象とした従来の修復方法に代わる、疾患に関連する遺伝子だけを標的とするエピゲノム修復方法を開発すること」である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 使用材料(iPS細胞)の作製状況 使用する材料として、本研究の対象疾患患者から樹立したiPS細胞を使用することにした。その作製の過程で、本疾患の遺伝学的特性から、完全に遺伝子異常の効果が現れる細胞集団と遺伝子異常の全く表れない細胞集団に大別することがわかり、後者は前者の遺伝的バックグラウンドが同一な正常対照細胞として使用できることが判明した。これにより、治療効果の判定が容易になった。 2. 解析対象遺伝子の探索状況 本研究の対象疾患の責任タンパク質MeCP2は多数の遺伝子に作用して発現を調節していることが判明した。本研究の途中で、われわれも本症候群患者に見られる精神・神経症状に関連するMeCP2の標的遺伝子を同定した。さらに、重症患者でみられ、異常患者ではみられなかったエピゲノム差異領域に存在する遺伝子を、本症候群の重症化に貢献する遺伝子として同定した。これらの新たな遺伝子も、治療効果が期待できるエピゲノム修復対象遺伝子と考えられた。 3. 遅れている課題 細胞材料と修復対象遺伝子の知見の拡大は本研究の達成度の向上に貢献したが、今後は修復対象遺伝子の配列に基づいたPIポリアミドの合成とその効果の検証が課題と考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. PIポリアミドの課題 PIポリアミドは、原理的にはDNAの配列に即した化合物で、特有のDNA配列に合わせてデザインすることで、目的の遺伝子のみに結合し、その機能を変える潜在性を持っている化合物である。しかしながら現時点での合成技術ではポリアミドを十分に長くすることができず、遺伝子特異性が若干低くなる欠点を有する修復方法である。 2. PIポリアミドの代替 近年、本対象疾患の症状を模倣するモデルマウス(Mecp2遺伝子欠失マウス)に新たに正常Mecp2遺伝子を導入し、最初は導入遺伝子をOFFにしておき、症状発現後にONにしたところ、症状が消失したとの報告がなされた。これを受けて、MeCP2の補充あるいはMeCP2機能を高める薬物の投与でも、治療法の開発につながることが期待される。PIポリアミドの使用が困難な場合は、他の選択肢を準備し、本研究の対象疾患(レット症候群)の新規治療戦略の確立を目指す。
|
Research Products
(19 results)