Research Abstract |
我々は,埋込型人工心臓の長期使用時におけるドライブライン感染症防止に有用な新規スキンボタンを開発し得た.本品は,ドライブライン皮膚貫通部の表皮から皮下組織に亘って設置し,使用する.フランジ下層は,三次元網状構造を有する多孔体(孔径200-300mm)であり,皮下組織と強固に癒着する.上層のフランジは柔軟な無孔性シートで作製され,表皮上に露出し同部を貫通するドライブラインを周囲組織と無理のない状態で固定可能な形状を有する.この構造により,本品は皮膚貫通部における表皮ダウングロースを抑制し,さらにはドライブラインからの物理的な負荷を周囲組織に伝えることなく,細菌感染の温床となる死腔形成を防止することを可能としている.本研究では,本新規スキンボタンを埋込型補助人工心臓のドライブライン(6mm径)に適用し,3ヶ月間の慢性動物実験にて性能を評価した.実験には仔ウシを使用し,スキンボタンをドライブライン皮膚貫通部に使用した2例およびドライブラインを直接皮膚より貫通させた5例を比較検討した.実験期間中,急性期を除き,消毒およびドレーピングを一切行わなかった.結果,スキンボタン未使用例5例中1例において,術後45日以降,出血を伴うドライブライン感染を発症し,創部の治療を必要とした.他4例については,皮膚貫通部において軽度のポケット形成が認められるが,炎症および感染所見は認められなかった.一方,スキンボタンを使用した3例では,実験期間中ドライブラインは皮膚に無理なく固定され,その周囲の表皮ダウングロースやポケット形成を抑制可能であった.また,遠隔期においてドライブラインに強い牽引を加えた場合においても,皮膚より剥離することなく,強固な癒着を維持していた.従って,新規開発したスキンボタンは,ドライブライン感染症に対し,その発症を効果的に抑制することが可能であると考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において,我々が開発した埋め込み型人工心臓のドライブライン用スキンボタンは,3ヶ月の動物実験にて,出口部感染の防止に有用であることが示された.また,本開発品は共同研究者であるニプロ社に,試験プラントを設置し,上市に向けて量産体制の構築と品質のバリデーションを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,本開発品を実際に上市するために必要な多孔体の生産方法の検討および生産品の生物学的安全性の検討をおこない,開発品の実用化を目指す.スキンボタンは,昨年度の研究において,我々が別途開発研究を行っておいる埋め込み型人工心臓のドライブライン用に開発されてきたが,より広範に使用されるように,様々な素材,ライン径に適合した形状(デザイン)の検討,素材の機械的物性の検討を行う.
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