2011 Fiscal Year Annual Research Report
炭酸アパタイト骨置換材の多孔性制御による骨置換速度の飛躍的増進
Project/Area Number |
23390444
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石川 邦夫 九州大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (90202952)
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Keywords | 炭酸アパタイト / 海綿骨 / 高温分解 / 溶解析出 / 前駆体 |
Research Abstract |
現在、骨補填材として臨床応用されている水酸アパタイト焼結体は優れた組織親和性と骨伝導性を示すが、自家骨と異なり骨には置換されない。研究代表者は骨の無機組成が水酸アパタイトではなく炭酸アパタイトであることに着目した。また、炭酸カルシウムなどの前駆体を用いた溶解析出反応で炭酸アパタイトブロックが調製できること、炭酸アパタイトブロックは破骨細胞によって吸収され、骨に置換されることを見いだした。 炭酸アパタイトは骨リモデリングに調和して骨に置換されるが、骨への置換は細胞によってなされるため、骨置換速度を飛躍的に向上するには連通多孔性を高度に制御する必要がある。 理想的な骨置換材の形態の一つは連通構造を示す海綿骨の形態であるが他家骨や他種骨は、抗原抗体反応や感染症などの問題がある。骨を高温で焼成すると、形態を保ったまま抗原抗体反応などの原因となる有機成分は完全に焼失される。一方、骨の無機主成分である炭酸アパタイトも炭酸基が遊離し、リン酸三カルシウムなどに熱分解される。そこで本研究では他種骨の海綿骨自体を前駆体として炭酸アパタイト骨置換材を創製する検討を行った。本年度は研究計画の初年度にあたり、骨自体を焼成し、前駆体とする計画を立てた。トリの骨を900℃で焼成したが、アパタイト構造が残存していた。そこでさらに高温焼成を行ったところ、アパタイトが残存するもののリン酸三カルシウム等に分解されることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物骨を焼成し、熱分解して炭酸アパタイト調製の前駆体とする方法に関して検討を行った。トリの骨を900℃で3時間焼成したところ、有機物が完全に焼失された。また、炭酸基が遊離し、一部熱分解が起こったと考えられるが粉末X線回折装置で結晶構造を分析したところ、アパタイト構造が残存しており、溶解析出反応による炭酸アパタイト調製前駆体としては適切でない可能性が示唆された。そこで、焼成温度をさらに高温とし、1500℃として5時間焼成した。粉末X線回折装置で結晶構造を分析したところ、アパタイト構造は概ね消失し、代わりにリン酸三カルシウム構造となることがわかった。ほぼα型リン酸三カルシウムであったが、一部β型リン酸三カルシウムと思われるピークが検出された。リン酸三カルシウムにおけるα-β転移温度は1180℃であり、1500℃で焼成してもβ型リン酸三カルシウムが存在することは興味深い。β型リン酸三カルシウムはマグネシウムによって安定化することが知られており、骨に含まれていたマグネシウムがβ型リン酸三カルシウムの安定化剤として機能したと考えられる。 マグネシウムはもともと骨に含まれていたこと、β型リン酸三カルシウムが炭酸アパタイトに組成変換されるか否かは不明であるが、β型リン酸三カルシウム自体が骨置換材として知られていることから、β型リン酸三カルシウムの存在は問題ないと結論した。 以上のことから本年度の研究計画を概ね達成したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
骨を高温で焼成することによって細胞の侵入に理想的であると思われる海綿骨等の構造を保ったまま、抗原抗体反応を惹起する蛋白成分を完全に焼却することができた。また、骨の無機組成である炭酸アパタイトからリン酸三カルシウムに組成が変化することがわかった。リン酸三カルシウムは炭酸基が存在する中性領域において熱力学的に炭酸アパタイトより不安定であるため、溶解析出反応の条件を適切に選択すれば、当該反応によって細胞の侵入に理想的であると思われる海綿骨等の構造を保ったまま炭酸アパタイトに組成変換される可能性が高い。 そこで、今後は本年の研究で確立した焼成条件で調製した骨焼成前駆体を用いて、溶解析出反応の最適化を行い、炭酸アパタイトの形成条件を検討することとした。
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