2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23401033
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
津村 宏臣 同志社大学, 文化情報学部, 准教授 (40376934)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 文化遺産情報 / 考古学 / 先史学 / 海洋民族学 / 文化人類学 / 時空間情報システム / GIS / イスラーム |
Research Abstract |
本年度はオマーン国において、特にシャルキーヤ地方とジャラーン地方において海洋港湾都市に関する現地調査を実施した。具体的には、7世紀から継続される港湾都市であるSurおよび中世以降それに隣接して成立したAyagahまたアラビア半島北東端の現在の港湾集落であるHaddと近代になって成立したSurの衛星集落であるSikekrahおよびNismahに調査に入った。調査では、現在の生業形態、民族(血族)構成(聞き取り)、居住地分布を悉皆調査し、併せて残存する文化遺産(特に港湾設備、関連集落址など)の一般調査を実施し、海洋民族史としてのシャルキーヤおよびジャラーンの文化史を整理した。 成果として、①現在の民族構成はSurを中心に分布する主要氏族と、Ayagahを中心に分布する主要氏族が隣接して分布する。そのなかで前者が海洋交易や商取引を、後者が地産漁業などに関わって都市形成がなされてきたこと(氏族が職掌分担を、職掌が居住域を決定する重層ハーラの確認)、②Haddなど近世以降の新しい都市はシャルキーヤの南ジャラーン地域からの漁民が移民して形成されると同時に、商取引に関わる職掌はSurを中心とした氏族が併せて移民して集落形成がなされること、③Ayagahは長く“優れた技術の民”と呼ばれる血族の末裔として位置づけられ、長く孤立的な閉ざされた生業過程があったこと、④Sur居住の各氏族は、主に海洋交易民としての性格を持つが、東アフリカ地域(ソマリアなど)やインド・パキスタンなどからの移民も多く、現在でもそうした移民の居住域である特定のハーラを形成していることなどを明らかにした。 これからのことから主眼においていたオマーン国における海洋民族史としての居住民の文化的性格として、アラブ・イスラームとは別のマリン・イスラームの集落、都市形成が先史・古代以来なされてきたことを意義づけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来、調査計画を立てていたインド地域において、2012年度は現地調査を実施できなかった。この原因は、インドにおける日本人主体の調査が困難であるという状況が徐々に明らかになってきたことによる。そのため、インダス文明の現地調査を実施されていた地球環境学研究所長田俊樹教授を研究主体である大学の研究センターに研究員として迎え、現在、現地大学との調整を行っている。現状ではMOUの締結やカウンターパート(調査主体)との調整が終了し、本年度はインド沿岸域の貝塚・先史古代集落の一般調査が主体的に実施できる予定である。また、継続的に関連遺跡情報や文化財情報の入力を進めており、これらからグジャラート州カーンメール遺跡周辺沿岸域での重点調査目標をたてることとした。気候や調査許可などの関係もあり、調査は11月から12月前後の予定としている。 本年度はモルジブについても、現地調査を実施する予定である。こちらも現地文化遺産関連機関との調整に時間がかかっていたが、受け入れ対応可能な状況が見えてきたため、重点的に現地に入り調査を実施したい。なお、イエメンについては現在沿岸域の集落に関するデジタル地図作成が終了し、本年度それらの属性情報作成、入力を実施する。政情により困難な場合以外は、やはり同様に現地調査を実施したく考えている。 昨年度予定していたオマーン国におけるWebGISを基盤技術としたGISに関する研修については、委託内容の調整が進まず、現在も継続して調整を進めている。 以上のようなことから、本研究申請時に実施予定であった調査・研究の約6割が終了した状況であり、本来進んでいるべき7割程度までの達成度に至っていない。本年度はこの点に注意し、研究を推進したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初、申請書に記載したイエメンでの現地調査が、イスラーム地域全域における国勢状況の悪化から難しい現状にある点は、昨年度の報告と同様である。特に、東沿岸域は南部では、アデン湾に面した対岸のソマリア側で海賊活動なども活発化しており、現地調査の実施は当面困難と考えられる。現状ではこうした情勢に対し、イエメンの西部で調査研究を進めている共立女子大学岩崎えりな(経済人類学・イスラーム学)准教授を研究主体である大学の研究センターに研究員として迎え、現地情勢の収集や経済状況、都市・村落調査の状況把握に努めている。 外国人による文化財調査の実施が困難なインドについても、同様に総合地球環境学研究所長田俊樹教授を研究主体である大学の研究センターに研究員として迎え、現在、現地大学との調整を行っている。特にカーンメール遺跡における発掘・調査実績のある合同調査のMOUやその際カウンターパートとなったアジットプラサート教授との調整を進めている。また、最終年度のシンポジウムを予定しており、現在、インドでの開催が可能か確認を進めている。多くのインダス文明研究者の参加を募りながら、情報共有(アラビア海沿岸交易に関する知見と問題点の整理)を進めたい。 本年度調査でオマーンシャルキーヤ、ジャラーンの情勢がほぼ明らかになり文化史が描けたことで、東アフリカ沿岸域における調査の必要性が生じたが、本年度最終年度でこの調査までを実施することは難しい。その意味で、本年度は情報収集とデータベースへの格納を引き続き進め、継続した研究の準備を進めたい。
|
Research Products
(12 results)