2012 Fiscal Year Annual Research Report
アジアにおけるリプロダクションの歴史的変遷-医療化の要因と女性への影響
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23401043
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
松岡 悦子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10183948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小浜 正子 日本大学, 文理学部, 教授 (10304560)
嶋澤 恭子 神戸市看護大学, 看護学部, 講師 (90381920)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リプロダクション / 出産 / 家族計画 / アジア / 医療化 / 近代化 / インドネシア / 助産師 |
Research Abstract |
今年度は主として、韓国、インドネシア、ラオス、中国におけるリプロダクションの研究を行った。韓国においては、高齢の助産師への聞き取りを行い、韓国内で出版されているリプロダクション関係の本や学位論文を日本語に翻訳して資料とした。韓国の出産が非常に医療化されるようになった経緯を、助産師の話から跡付け、その理由を「圧縮された近代」というウルリヒ・ベックやチャンの理論をもとに考察した。 インドネシアは、現在助産師の専門職化が進むと同時に、都市部での病院化が生じており、村落部ではこれまで助産所で産んでいた女性たちが、病院に搬送される例が増えている。その背後には、正常産のガイドラインが助産師に適用されるようになったことがあり、助産所から病院への移行が村落部においても進みつつある。今年度は、インドネシアにおいて、助産師への聞き取り調査と同時に、ガジャマダ大学(ジョクジャカルタ)で共同セミナーを行い、そこで調査結果の一部を発表した。 “Modernization of Reproduction in Asia with a Comparative Perspective” in Joint Seminar on Reproduction in Asia: Impacts of Modernization on Local Culture and Women’s Health at University Club Hotel, Gadjah Mada University, Yogyakarta. 12-13 January, 2013. ラオスにおける調査では、都市部の女性たちの産後の気分の変化について注目し、産後の伝統的な習俗と、近代精神医学的な診断との関連について考察を行った。 中国においては、昨年度と同様に、村落部における家族計画の変遷について村の女性たちに聞き取りを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各研究者がそれぞれの勤務に応じて研究計画を立て、調査を実施している。H24年度は年に2回の国内の研究会と、インドネシアでの共同研究会を行った。共同研究会においては、ガジャマダ大学のCenter for Population and Policy Studies と連携し、インドネシアでリプロダクションに関する研究を行っている人々との交流を行った。インドネシアでは、家族計画の研究者が多く、またグローバル化による人の移動で、イスラム的な性の規範の維持が難しくなりつつあり、リプロダクションの研究は大きな意味を持っている。 韓国においては、高齢の助産師に聞き取り調査を行っているが、助産師の数が少なく、インフォーマントが限られている現状がある。今後はさらに文献を探し、聞き取り以外の方法によって情報を集める必要がある。 本科研の研究分担者に、さらにリプロダクションの研究者を加えて、H24年度から研究成果の一部を書籍にまとめる準備を進めてきた。成果は、『アジアの出産と家族計画』として、H25年度中には出版予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度は、さらにそれぞれの地域での調査を継続し、ラオスにおいて研究会を行う予定である。ラオスでは、国全体としては医療化はそれほど進んでおらず、病院分娩の率も半数に満たない状況である。今後は、近代化のスピードや時期とリプロダクションの変化との関係について、さらに研究を進める予定である。たとえば、韓国の急速な近代化とインドネシアの比較的緩やかな近代化、またラオスでの近代化以前の状況を比較したときに、国家の状況とリプロダクションのあり方にどのような関係が見られるのかを探る。 さらに、アジアの近代化の特徴といった場合、その特徴とは西欧に比較した際の特徴であるから、西欧のリプロダクションの歴史を知ることも、次年度の課題である。そこで、次年度は西欧の出産の歴史の研究者を招聘して、アジアと西欧の出産の歴史についての研究会を行うとともに、ラオスでの研究会を行って、アジア地域内での特徴を探りたい。 これらの分担研究者を交えての研究会の他に、各分担研究者および研究協力者は、それぞれの調査地域での研究を継続する予定である。 なお、インドネシアに関しては、ほぼ20年前に中部ジャワ州の村でリプロダクションのアンケート調査を行った。そのときの出産・育児、家族計画に関するデータと、20年後の現在の状況とを比較するために、ほぼ同じ項目を使ったアンケート調査を実施する予定である。同じ村においてリプロダクションの状況が過去20年間にどのように変化したかを明らかにすることは、本研究において有意義と考えられる。
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