2013 Fiscal Year Annual Research Report
現代中国におけるウイグル族の民族意識とイスラーム信仰に関する民族誌的研究
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23401049
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
西原 明史 安田女子大学, 家政学部, 准教授 (60274411)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 俊華 近畿大学九州短期大学, その他部局等, 教授 (30284459)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ウイグル族のアイデンティティ / 独自のイスラーム / 国際情報交流 / 参与観察 / 民族独立運動 / 哈密地区 / バイリンガル教育 / 共生のメカニズム |
Research Abstract |
申請した研究テーマである「ウイグル族の民族意識とイスラーム信仰の関係」を明らかにするため、これまでの科研調査の2年間で収集してきた膨大な口頭・文献資料の整理と分析を行い、その結果に基づく中間報告書を作成したことが、研究代表者の25年度の主な研究実績である。 この報告書においては、新疆ウイグル自治区の政治情勢が悪化し、自治区内外でウイグル族のテロ事件が頻発する中、民族関係が比較的安定した新疆東部哈密地区における民族共生のメカニズムを現地の実態に基づいて分析し、定式化を試みている。そして、新疆の他地区への応用可能性について検討するところまで構築することができた。 新疆ウイグル自治区での現地調査については、業務ビザを申請したものの取得できず、観光ビザで8月に中国に渡航したものの、入国審査を行う大連空港にて拘束され、「国家安全危害罪」の疑いで、強制退去処分を受けることになった。25年3月の調査時、研究代表者による取材活動や発表論文などが現地当局の情報網にかかり、厳しい取り調べを受けたが、そのことが原因であると思われる。この事件があったため、26年3月に予定していた調査もキャンセルせざるを得なかった。 研究協力者も同様の理由で現地調査を実施することができなかったものの、既に収集済みの民族教育・学校教育関係の口頭・文献資料を分析し、中間報告書を作成している。趣旨は代表者が担当する宗教・文化面と同様である。哈密地区においては学校教育方面でも表面上は政府の政策と少数民族の要望の間に大きな乖離があるが、日常の生活や学校の場では互いの譲歩や妥協が見られる。それが共生の動力となっていることを詳細な聞き取りから明らかにした。 他に、現地書店では入手しにくい新疆に関する統計資料、文芸・社会方面の調査資料を日本においてネット上で多数発見することができ、購入している。今後もその翻訳・分析作業を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究内容的には満足のいく成果を上げつつあると考えている。それは、本科研の初年度・2年目に計4回実施した新疆ウイグル自治区での現地調査で、数多くの口頭資料や観察・体験データを収集することができたからである。モスクのイマーム(礼拝の主宰者)などイスラーム関係者、民間芸術家やシャーマン(民間宗教者)など、ウイグル族の宗教的世界を司る人々はもちろん、教師や技術者などの知識人、商売人や農民など世知に長けた人々、さらには学生や年配者まで、各種の職業・世代・性別にわたって接触し、取材することができた。 25年度は「研究実績」でも述べたように、中国当局による拘束や国外退去処分などに遭って現地調査に重大な支障が生じたために、肝心の参与観察が不可能となった。しかし、既に前年度までに大量の口頭・文献資料を収集済みであったため、それらの解析にあたるだけで、本科研のテーマに通じる「ウイグル族と漢民族の共生メカニズムの定式化」に関する仮説を樹立していくには十分であった。それは以下のような内容である。 政治情勢が極端に悪化している新疆ウイグル自治区内で例外的に安定した民族関係を保つ哈密地区の現状を、宗教・教育・国家・経済・政治など様々な領域に関するウイグル族と漢民族双方の言動から分析してみると、哈密地区には互いの譲歩や妥協の結果生み出された民族間の信頼関係があり、それを背景に相互に相手民族の理想像を演じ合っているのではないかというのが、現時点で構築されている仮説である。 報道によれば、中国政府の政策で新疆の民族関係は極端に悪化しているとされる。恐らくその通りだが、突出した事件やそれについての中国政府当局・政府系メディアの発言やウイグル族の海外団体による過激な声明とは違った実情が新疆の日常生活に見られることも事実で、それを詳細な参与観察によって明確にできていることが、本科研が順調であることの証左である。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研は、現地調査による資料収集を基にウイグル族ら少数民族との共生システムを内包した中国の政体を構想することが目的である。特に新疆ウイグル自治区東部の哈密地区にこのシステムの萌芽が見られるため、それを徹底的に調査し、この地域の共生メカニズムを定式化した後、新疆の他地域にも応用可能かどうか比較検証していくことを研究の方法としていた。 しかし、昨年頃より新疆の政府当局の政策が急変し、調査目的の外国人とウイグル族の接触が禁止されるような事態に陥っている。研究代表者の場合、25年3月の調査時に現地公安により拘束され、厳しい取り調べの上に逮捕も示唆された。8月にも入国を拒否されている。こうした状況で、現地調査による研究の遂行が困難になってきており、26年度も恐らく大きな変化は期待できないと思われる。 幸い昨年一昨年の4度にわたる調査や、それ以前の現地調査によって膨大な口頭・文献資料が得られている。哈密地区を中心に、各職業・世代・性別・階層にわたって数多くのウイグル族に公的・私的にインタビューしており、それらの資料はまだ全て分析し終わったわけではない。また、取材は「哈密地区非物質文化遺産保護研究センター」の大きな協力の下で行われていたが、そこの気鋭の若手研究員が多数の未発表論文を提供してくれている。それらの翻訳作業も進める必要がある。さらに、「内部資料」として現地の教育委員会から提供された文献資料や、ネットを通して購入した学術調査論文集などもあり、翻訳・分析を今後逐次実施していく予定である。 現地調査については、新疆在住の協力者らと連絡を取り合い、現地の状況に関する情報を得ながら判断していく。 以上のように、収集資料の翻訳・分析・考察を中心に、研究代表者らが本科研を含めて新疆ウイグル自治区で実施してきた調査研究成果を整理し、民族共生メカニズムに関する仮説をより強固なものにしていく。
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Research Products
(2 results)