2012 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル化と変貌する南アジアのマイクロファイナンス
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23402023
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊東 早苗 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80334994)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
須田 敏彦 大東文化大学, 国際関係学部, 准教授 (00407652)
岡本 真理子 日本福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (50351078)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | マイクロファイナンス / グローバル化 / 南アジア |
Research Abstract |
本研究の目的は、グローバル化の中で変容しつつある南アジアの農村で、マイクロファイナンスがどのような可能性と課題をもつかを検証することである。平成24年度は、ネパール、スリランカ、カタール、マレーシアを訪問し、出稼ぎ労働者の金融需要や金融サービスへのアクセス、および輸出用紅茶産業における穀物保険導入の仕組み等について調査した。特にスリランカにおける調査には、研究代表者・分担者全員が参加し、スリランカの代表的なマイクロファイナンス機関であるサナサ銀行の協力のもと、紅茶栽培地域におけるインデックス保険の導入形態について調査した。また、研究分担者の1人は、南アジアからの海外出稼ぎ労働者の実態と金融需要を調査するため、マレーシアとカタールで南アジアからの出稼ぎ労働者を対象にした調査を実施した。 この他、マイクロファイナンス研究における世界的権威であるジョナサン・ムルドック氏とスチュワート・ラザフォード氏を招いて、名古屋大学大学院国際開発研究科で国際ワークショップを開催した。このワークショップにおいて、2人の専門家から、マイクロファイナンス研究における世界的な動向と、マイクロファイナンスの貧困削減に対する最新の影響評価手法について、知見を賜った。また、研究代表者・分担者は、「マイクロファイナンスとグローバル化の関係」、「南アジアにおけるマイクロファイナンスと海外出稼ぎ労働者」、および「ネパール農村における貯蓄組合の近年の動向」について、研究成果を中間発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の交付申請書に概ね忠実に調査研究活動を実施できた。特にスリランカにおける現地調査には研究代表者・分担者全員が参加し、スリ・ジャワルデネプラ大学のシラント・ヘンケンダ講師とサナサ開発銀行の協力を得て、短期間に多くのインタビュー調査を実施することができた。スリランカ中央銀行、世界銀行、シンクタンク、マイクロファイナンス業界団体、サナサ銀行本店および農村支店とその顧客が主なインタビュー先に含まれる。調査の結果、スリランカにおけるマイクロファイナンスの全体像と農村地域の実態について、概要を把握することができた。 この他、計画通りに、国際的に活躍するマイクロファイナンス分野の研究者2名を招聘し、研究成果の中間報告をかねて国際ワークショップを開催した。この機会に世界的に著名な専門家の知見を得ることが出来たと同時に、我々の研究成果を広報することにもつながった。 初年度とあわせると、ブータン、ネパール、バングラデシュ、スリランカ、インドの状況について調査することが出来たが、パキスタンでの調査機会をもつことが出来なかった。また、訪問した各国での調査も短期間であり、じっくり腰を落ち着けてデータを収集するだけの時間的余裕がなかった。それに加え、それぞれの国におけるマイクロファイナンスの発展経路は多様でり、必ずしも南アジア全体に共通したグローバル化の影響を見極めるのは難しいことがわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度は、これまでの調査でとりこぼしたデータを収集する他、研究成果をバングラデシュまたはインドで発表する機会を設ける。調査を進める過程で、南アジア諸国の中の多様性を認識するようになり、グローバル化とマイクロファイナンスという共通の切り口では各国の状況をかならずしも的確に分析しきれない側面があるとの結論を抱くにいたった。ブータンやネパールの農村はもっともグローバル化の影響が低い状況にある一方、スリランカは比較的高い社会開発指標をベースに、1970年代後半に始まった農村組合運動を基盤としたマイクロファイナンスが浸透している。インデックス保険の導入等、グローバル・テクノロジーの影響を受けた新しいサービスの展開という側面もあるものの、どちらかといえば伝統的な農村の組織化を軸に、地道な金融サービスの提供が主体である。 ただし、これまで調査したどの国においても、その国独自のマイクロファイナンスの発展形態に調和する形で、国際社会が推進するマイクロファイナンスの政策方針が、ドナーを通じて深く浸透していることが見てとれる。今後の研究を推進するにあたって、グローバルなマイクロファイナンス産業の影響が、南アジア各国でそれぞれどのように草の根の実践と結びついているかを見極めたい。また、ブータンを除く南アジア各国で、海外出稼ぎ収入が農村経済に大きな影響を与えつつあるので、従来のマイクロファイナンスの提供形態が、この動きにどのように対応するのかを引き続き分析したい。
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