2012 Fiscal Year Annual Research Report
景観の公共性に関する日米比較社会研究――建築保存から社会保存へ
Project/Area Number |
23402049
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
堀川 三郎 法政大学, 社会学部, 教授 (00272287)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 環境社会学 / 町並み / 保存運動 / 小樽運河 / セントルイス / 都市計画 / 歴史的環境 / 都市政治 |
Research Abstract |
本年度は,研究計画にしたがって,国内調査(小樽)と米国調査(セントルイス)とを実施した。 国内調査では,小樽市の歴史的景観の定点観測を継続し,小樽の町並みのデザイン・コードが変化してきている様を記録することができた。端的に示すなら,それは「歴史性と地域性に基づいたデザイン」を旨としてきた小樽の町並みが,徐々にではあるものの,歴史性や地域性を度外視したユニバーサルなデザインを指向し始めた,という変化であった。小樽の歴史を活かしたノスタルジックな町並みから,東京やニューヨークにでもありそうな,おしゃれで先端モードな町並みへ---このようにデザイン・コードが脱地域化してきていることが明らかにされた。 米国における町並み保存運動調査は,セントルイスの「センチュリー・ビル取り壊し事件」を中心に扱った。本年度の調査によって,この事件の前史にあたる部分が一定程度解明されてきたことが成果といえるだろう。2000年代中盤にクライマックスを迎えた「センチュリー・ビル取り壊し事件」には,実は,1960年代後半から1970年代にかけての「旧裁判所・旧郵便局舎保存問題」があった。地元の粘り強い保存運動の結果,連邦政府所有の「旧裁判所・旧郵便局舎」は保存されるに至った。この運動の成功に基づいて旧局舎は「保存的再開発」がなされたが,1990年代初頭には,その失敗が明確になってきていた。これが後の「センチュリー・ビル取り壊し事件」の重要な前提条件となっていることが見えてきたように思う。つまり,一回目の保存論争は保存運動側が勝利し,2回目の論争は,開発側が勝利した,ということである。同一都市の同一建築物をめぐる二度の保存論争は,アメリカでの保存問題の変化と変遷を示してくれる好個の事例であり,本研究が着目して詳細に分析しようとする理由もここにある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度のセントルイスでの現地調査において,幾人もの重要な証言を聞くことができた。特に,対立した開発側および保存運動側の双方のキーパーソンにインタビューすることができた点が大きい。 加えて,現地のLandmarks Association of St. Louis, Inc.や元保存運動参画者らの全面的かつ継続的な協力を得られることとなった。文書資料入手という意味では,St. Louis Public Library, Washington University in St. Louis Libraries, National Trust Collection (at U. of Maryland, College Park)で過去の貴重な資料が入手できたことも,研究の進捗にとって重要であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2013(平成25)年度は,セントルイスおよびシカゴでのインタビュー調査,町並み景観の撮影,比較対象としての小樽町並み定点観測といったものを継続して実施する予定である。 とくにセントルイスでは,元運動家たちの詳細な聞き取り調査を継続することが重要であると考えている。というのも,日米どちらにおいても,「旧裁判所・旧郵便局舎保存問題」も「センチュリー・ビル取り壊し事件」も,ほとんど記録がまとめられた形跡がなく,したがって学術的に分析されてはいない。本研究が,実質的に最初の研究になる(なっている)と思われることから,基礎的な証言・資料を可能な限り収集・保存し,年表的事実を確定していくことが肝要であると考えている。
|
Research Products
(1 results)