2011 Fiscal Year Annual Research Report
コモンズの管理権をめぐる多様なアクターの正当性:日中欧での調査研究と実験的検討
Project/Area Number |
23402054
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
野波 寛 関西学院大学, 社会学部, 教授 (50273206)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
坂本 剛 名古屋産業大学, 環境情報学部, 准教授 (30387906)
田代 豊 名桜大学, 国際学部, 教授 (20441959)
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Keywords | 正当性 / 管理権 / コモンズ / 公共政策 / シミュレーション・ゲーミング / 沖縄県 / 内モンゴル自治区 |
Research Abstract |
本研究では当該年度において、コモンズの管理権をめぐる多様なアクター間での正当性の相互承認構造を検証するため、沖縄県と内モンゴル自治区で調査を実施した。 まず沖縄県では、本島中部における海岸管理を取り上げ、当該海岸線を含む村落地域の住民と、同一自治体における都市住民を対象として、比較データを収集した。のべ約550名分のデータを分析した結果、村落住民と都市住民はいずれも、当該海岸の正当な管理権を持つのは村落住民であると評価していた。都市住民は海岸の管理問題に対する関心が低く、当事者としての村落住民に管理を委託することで、当該の管理問題に注意を払う認知的な負担を回避しようとする傾向が示唆された。これを消極的当事者主義と定義し、次年度で検討を加える課題とした。 また内モンゴル自治区では牧草地管理に焦点をあて、牧草地を生活基盤とする当事者としての牧民と、牧草地の砂漠化によって被害を受けるとされる都市部の住民を対象としてデータを収集した。のべ約400名分のデータを分析した結果、沖縄における調査と同様に都市住民は牧草地の管理に対する関心が低く、その管理権が牧民にあると評価する傾向が示された。また、行政に管理権があるとする傾向も見られた。 これらの調査結果より、当事者と非当事者という2種のアクターのうち、特に非当事者における消極的当事者主義の発生が解明され、コモンズの適正管理など公共政策の決定過程において社会的ガバナンスの円滑な機能を阻害する要因として今後検討を要する課題が示された。また、シミュレーション・ゲーミングの一種である“誰がなぜゲーム”を用いた実験によっても同様な結果が示された。 以上の結果を受け、当事者と非当事者が対立しやすい、迷惑施設の立地をめぐるNIMBY(Not in my backyard)問題において、次年度さらに正当性の承認構造を検討する方針を決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では当該課題について、沖縄県と内モンゴル自治区の2地点で調査を実施する計画であった。また、それぞれの地点において、当該の資源管理政策(公共政策)に関与の深い当事者と、関与の浅い非当事者を対象とした比較調査を実施する必要があった。 沖縄県と内モンゴル自治区のそれぞれで慎重な予備調査を行った上、対象地の選定を行い、当初の計画に沿ったデータ収集を完了することができた。さらに、それらのデータに対する分析も実施し、今後の研究計画を拡大展開するための新たな課題を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、当該年度に行った調査結果を分析した結果、コモンズとのしての資源の管理政策(公共政策)に対する関与の低い非当事者において、これらの資源の管理権や政策の決定権が当事者にあり、自分たち非当事者にはそうした正当性はないと自らの権利を放棄する傾向が見出された。 本来、資源の適正管理やそのための政策決定は広域多数者にも広く浅い公益をもたらし、その点で非当事者自身の利害にもかかわる社会的決定である。しかし、上記のように非当事者は当事者のみに決定をゆだねる消極的当事者主義を発生させていた。こうした傾向は、いわゆる迷惑施設の立地をめぐるコモンズ・ジレンマの一種であるNIMBY問題において重大な問題を発生させる。すなわち、迷惑施設の立地によって公益を獲得する非当事者(広域多数者)は、迷惑施設の是非の決定に対して無関心となり、その決定権を当事者に委託する。しかし迷惑施設の立地によって公益より私的損害を多く被る当事者(地域少数者)は当該施設を拒絶する。つまり、公益を創出する迷惑施設の立地に非当事者が無関心となり当事者に決定権を承認する消極的当事者主義を発生させることで、当事者が当該施設の是非を決定することとなり、当事者がこれを拒絶することで、その施設は立地不可能となり、交易そのものが達成されない結果となる。すなわち、NIMBY問題は解決されず、当事者・非当事者のいずれもが公益を獲得できない共貧状態となってしまう。 わが国では現在、放射性廃棄物処分場の立地、在日米軍基地の移設などをめぐり、多様なアクター間で係争が頻発する事態となっている。これは、上記のように非当事者(広域多数者)において消極的当事者主義が発生した結果であるとも推測できる。そこで本研究では、これら迷惑施設をめぐっての当事者・非当事者の間での正当性の相互承認構造について、次年度さらに検証を進める方針を決定した。
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Research Products
(11 results)