2011 Fiscal Year Annual Research Report
ガンジスデルタの堆積構造に基づく広域的地下水ヒ素汚染機構の解明
Project/Area Number |
23404013
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
真野 明 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (50111258)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石橋 良信 東北学院大学, 工学部, 教授 (10111246)
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Keywords | 有機物 / 溶出平衡 / 堆積構造 / 沖積地形 / ヒ素汚染 |
Research Abstract |
世界最大規模のガンジスデルタでは、一億人以上が飲料水を地下水に依存して暮らしている。数千万本といわれる井戸の約30%が、WHOの安全基準0.01mg/Lの5倍以上のヒ素に汚染されており、住民は慢性ヒ素中毒の危険に曝されている。本研究は、このガンジスデルタにおいて、安全・豊富で持続可能な水資源を見出すことを大きな目的とし、これを実現するために次の2つの要素研究を行う。(1)高ヒ素帯水層が形成された第四完新世の堆積構造を明らかにする。(2)高ヒ素帯水層におけるヒ素溶出機構を明らかにする。これらの知見を統合することにより、ガンジスデルタにおける、高ヒ素帯水層、低ヒ素帯水層の3次元的な分布を明らかにし、安全な水資源探索の指針を示す。本研究は,外国人共同研究者としてM. Rahman博士を加え,東北大学の真野と,東北学院大学の石橋の3名で実施した。 現地調査は主にRahmanが担当した。真野,石橋も参加し現地の状況など情報を共有し,現地調査の最適化を図った。。また,その他の調査項目である試料分析,溶出実験,堆積構造解析においても,主担当以外の研究分担者と情報を交換しながら研究を進め,研究の総合化に努た。 Rahmanは Kalaroaを通る南北軸に沿って井戸掘りによる試料(土砂・地下水)採取を行った。試料の成分分析を行ったのち、溶出試験・吸着試験を行い、平衡定数や反応定数を同定した。 石橋・真野は、採取した土砂試料の粒度分析を行った。試料の含有成分分析、ICP-MS,蛍光x線分析,XRD分析、有機物分析を行った。 真野は南北軸の堆積構造解析を行った。また、異なる海水準に対する土砂輸送解析を行い堆積特性を明らかにした。石橋は、Rahmanと一緒に溶出・吸着実験を行い、分配係数・反応速度係数を同定した。また有機物によるヒ素溶出増幅機構を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Kalaroaの試料を使った分析結果では,分配係数は地表に近づくに従い小さくなる分布を示しており,浅い帯水層ほど溶出し易い環境となっている事がわかる。また,現地における溶出が平衡状態にあると仮定して求めた分配係数と実験室で得られた分配係数は近い値を有しており,現地が溶出平衡状態にある事がわかる。この分配係数を表現するモデルを求め因子分析の結果,土砂中の鉄およびアルミニウム濃度,水溶液中のpHと相関が高く次式で回帰される事がわかった。回帰式のうち,鉄およびアルミニウムの係数は+であり,これらの成分が吸着作用をもっている事がわかる。また,pHに係る係数は-でありこれは溶出に関する因子である。 LogKd = 0.58LogFe + 0.19LogAl - 0.49 pH + 3.66 分析の結果堆積層中の有機物が分解し,炭酸を形成してpHを変化させている事がわかった。他の地点,A2,A3についても同様の分析を行う事により,そこでの溶出平衡状態と影響因子を知ることができ溶出機構の一部が解明した。有機物がヒ素溶出を増幅する機構に関しては,微生物関与説と炭酸イオンの置換説があり,これを明らかにするヒントを得た。 今から1.2万年前の最終氷期終盤には海水面が現在より約120m低位置にあり,地球が温まり海水面上昇する過程で,ガンジスデルタは発達してきている。また堆積層の形成時期から,その時の海水面の位置を知る事ができ,ガンジス・ブラマプトラ河川の河口周辺におけるエネルギー勾配が推定可能になった。これらから土砂の掃流力を概算し,浮遊砂輸送解析から当時の堆積環境を追算した。これを堆積土砂試料より求めた空間分布と比較することにより,試料が得られている点の間の分布を推定し補間した。 分配係数が低く,堆積土砂中のヒ素濃度に比べて地下水中のヒ素濃度が高い帯水層では有機物含有量が多い事がわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ガンジスデルタの東西軸(B1 Gopalganj, B2 Lakshmipur)についてのサンプリングを行い,成分分析,溶出実験,堆積構造の解析を同様に行う。M. Umitsu(1985, 1987, 1993)はガンジスデルタ低平地の地形について詳しく調べている。これによると,ガンジス川,ブラマプトラ川ともその流路を大きく変えてきており,特にガンジス川は紀元前300年には,ガンジスデルタの西岸を流れ,漸次東遷し今から400年前に現在の位置に落ち着いたと述べている。河川の流れを横切る方向に,堆積構造がどのように違ってくるかを調べるのがこの調査の目的である。 平成23年度の研究成果と合わせて,土砂中にヒ素が高濃度で含まれている層,地下水中にヒ素が高濃度で含まれている層,分配係数が低い層の空間分布を求め,南北格差,東西格差やその成因を分析する。 さらに,ヒ素濃度が低い帯水層から地下水を汲みあげ続けた時に,周辺のヒ素濃度の高い地下水が移流してきて,ヒ素濃度が変化する懸念がある。このため,分配係数や反応係数の分布量を使って,ヒ素の移流,拡散,吸着,溶出に関する数値解析を実施し,可能取水量を推定する。 3年目は,研究成果が蓄積されて来るので国際会議や国際学術誌に成果発表を進める。 研究分担は、Rahmanが東西軸(B1, B2)に沿う井戸掘り。土砂・地下水試料集め。現地分析を担当する。真野・石橋が、粒度分析。C14年代調査。試料の含有成分分析。ICP-MS,蛍光x線分析,XRD分析。有機物分析を担当する。石橋が溶出・吸着実験、分配係数・反応速度係数の同定、有機物によるヒ素溶出増幅機構、東西格差の検討を担当する。真野が東西軸の堆積構造解析、土砂輸送解析、ヒ素輸送解析を担当する。
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Research Products
(15 results)