2013 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯泥炭湿地における環境農業―サゴヤシ栽培の炭素シンク機能と生産技術の改善
Project/Area Number |
23405047
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡邉 彰 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50231098)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 豊 山形大学, 農学部, 教授 (90005661)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 環境調和型農林水産 / 二酸化炭素排出削減 / 環境材料 / 熱帯泥炭 / 炭素循環 / 腐植物質 / 熱帯農業 |
Research Abstract |
サゴヤシは熱帯泥炭湿地の高地下水位下で生育できる希有な高デンプン生産植物である。本研究は、マレーシア・サラワク州・ムカを対象地域とし、泥炭湿地におけるサゴヤシ栽培系がCシンクとして機能しているかどうかを調べるとともに、合理的窒素施用条件、移植後定着率を上げるための幼苗育成法、微量元素の効率的施用技術を確立することを目的としている。昨年度に続き、現地サゴヤシ2圃場(SG1、SG3)において、2度(9月、3月)のサゴヤシ生育調査(幹高、幹径、葉数)、雑草バイオマス量調査、リター分解試験の継続、土壌からのCO2フラックスの調査を行った。サゴヤシの幹高生長速度は9.6~11.7 cm month-1で、幹径には有意な変化は見られなかった。サゴヤシリターの半減期は6.7ヶ月と推定され、リターの分解速度とC含量、落葉速度、サゴヤシ栽植密度からサゴヤシから土壌へのCフラックスは1250 kg C ha-1 y-1と見積もられた。この値は、土壌から大気へのCO2放出量:605~811 kg C ha-1 y-1を上回った。また、昨年9月に刈り取った雑草プロットの再調査により、一年で雑草C量の64~75%が回復したことが分かった。泥炭土壌のN無機化速度を培養法で測定したところ、サゴヤシリターの分解に伴って無機化されるN量89 kg N ha-1 y-1の3~3.5倍であった。一方、N安定同位体比の測定に基づいて予測された土壌NのサゴヤシNに対する寄与率は、29~51%であったことから、移植後のサゴヤシへのN施用は不要であると推定された。泥炭から抽出したフルボ酸に銅または亜鉛を吸着させ、水耕によって植物(コマツナ)による利用性を確認した結果、葉脈の赤紫化等の過剰障害が現れ、容易に植物に吸収されうることが示唆された。次年度は泥炭土壌に混合したフルボ酸-金属錯体の吸収率を確認する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の4つの目的のうち、サゴヤシ栽培系のC循環の解明は概ね順調に進んでいる。自動土壌呼吸測定装置の故障のため、データの欠損が出ているが、今年度、手動で温室効果ガスフラックスの測定を行ったため、全体の評価は可能である。移植後定着率を上げるための幼苗育成法については3月に最後の圃場試験(移植後の生育調査)を開始し、次年度内に結論が出る予定である。微量元素の効率的施用技術については、調製したフルボ酸-金属錯体中の金属を植物が利用可能であることを確認するところまで進んだが、泥炭土壌に加えた際の挙動が未測定のまま残された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の4つの目的のうち、サゴヤシ栽培系のC循環の解明については、土壌からのCO2フラックスの経時変化についてのデータ採取を継続する。また、生育調査を行ってきたヤシの収穫を行ってC量、N量を明らかにするとともに、これまでのデータをまとめて解析する。 合理的N施用条件の確立については、サゴヤシNの安定同位体比に関する情報(葉の位置や樹齢との関係)を増やし、トレーサー実験のデータ解析を進め、土壌N無機化速度と合わせて、N施肥の必要性について結論づける。 定着率向上試験は、予定通り圃場試験を進め、終了後は速やかに分析を行って、苗床へのN肥料施用が移植後の生存率と生育速度に及ぼす効果について結論を得る。 フルボ酸を利用した効率的微量元素施用技術の開発については、フルボ酸-金属錯体の泥炭土壌中における安定性を調べるとともに、ポット試験によって植物の利用性を評価する。
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