2012 Fiscal Year Annual Research Report
より適切な母子保健環境をバングラディッシュ農村に齎すマイクロインシュアランスの設計
Project/Area Number |
23406016
|
Research Institution | Research Institute, International Medical Center of Japan |
Principal Investigator |
明石 秀親 独立行政法人国立国際医療研究センター, 国際医療協力部, 派遣協力専門官 (30175773)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
JESMIN Subrina 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60374261)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | ヘルスマイクロインシュアランス / 母子保健 / 南アジア / バングラデシュ / 発展途上国 / ソーシャルイノベーション / 健康プロモーション / 貧困撲滅 |
Research Abstract |
目的:バングラデシュ農村部の母体死亡率は非常に高い。グラミン銀行によるマイクロインシュアランスを母体とするヘルスケアシステム(Health micro-insurance program : HMI)は、この農村部女性の健康危機に対して実効性のある保険制度として、世界的な注目を浴びつつある。このバングラデシュ農村地域とHMIを対象として、以下のような目的で調査研究を行う予定であった。すなわち、1)バングラデシュ農村部の女性/母親や家庭内の意思決定者が求める母子保健(制度)の条件や課題の抽出/評価。2)HMIにより提供されている母子保健パッケージへの高い需要の分析/理解。3)予防的/治療的の両面でより有効に、より最少のコストで最大限継続されうる特別な母子保健パッケージの設計/提案。これらを踏まえた上で、今回の農村部の女性に対する調査から、これは、途上国と言われるバングラデシュにおいても先進諸国と同様にmetabolic syndromeが増えてきていること、またそれは妊娠・出産回数の多寡に関係ありそうなことが判明し、このような疾患の予防や治療の保健パッケージを考える上で、基礎的なデータになることが期待される。このように、この成果は、バングラデシュや多くの発展途上国の母子保健の発展に貢献すると同時に、その成果は我が国の母子保健制度の改善や少子高齢化問題の対策等にも広く寄与することが期待される。 本年度(~平成25年3月31日)の研究実施計画 当初の予定では、最初に、10の農村を研究対象として選出。6つの農村は、グラミン銀行によるマイクロインシュランスを母体とするヘルスケアシステム(Health micro-insurance program : HMI)のそれぞれの部門から、2つの農村は、他のHMI保険施設BRAC(Bangladesh Rural Advance event Committee)から、1つはNorthern half(Rajshahi, Dhaka an Sylhetの三つの部門を含む)から、残りの2つの農村は、上記のHMIプログラム外から選出。それぞれの世帯からは、妊娠可能な女性と、世帯主に調査を行う。もし、妊娠可能な女性が世帯主の場合、彼女のみがその世帯の回答者となる。今回、バングラデシュの農村部の村において、15歳から75歳の女性1,219人に対して調査を実施した。その結果、妊娠回数や出産回数が多い群(4回以上)では、それより少ない群と比べて、metabolic syndrome(肥満、高血糖、高トリグリセライド血症、高血圧のうちの3つ以上を持つか、高血圧や糖尿病の治療中)の有病率が多いことが判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、本研究の2年度の計画事項をほぼ100%遂行することが出来た。HM1を周知する目的にて、アンケート調査・情報提供者へのインタビュー・重要課題別グループ討議・HMI(Health micro-insurance program)のシンポジウム等を行った。予備調査結果とほぼ一致した結果であるが、本調査の結果、人々の保健福祉の改善への期待内容として、社会革新のための上位10項目(医師をはじめとする医療専門職の増員、保健政策の改善、保健医療予算の増額、貧困撲滅、医療教育の改善、居住環境の改善等)がバングラデシュ国の健康改善に寄与する可能性が高い事が示されたほか、マイクロインシュランスシステム(HMI)の推進も、全項目中の上位第2位を占めた。即ち、HMIの推進に対する国民の期待が極めて高い事が判明した。我々は、バングラデシュ国の農村民6,200名にHMIの調査を行った(研究対象者の66.17%が女性・33.83%は男性)。その結果、バングラデシュ国の農村民でHMIを知っているのは、僅かに10.47%であった。約83.2%の農村民がHMIカードの保持・活用に興味を示した。妊婦にHMI利用について尋ねた結果では、妊娠中のHMI活用に関する知識を有する人は皆無であったが、シンポジウム後には、調査対象の全員が、妊娠中および前後を通してのHMIの利用を希望した。人口の31.41%が保険料として一年で200タカを払う余裕がある、その一方で、27.9%の人は一年で100タカの保険料を逆に必要としている事が判明した。HMI事業における妊婦検診サービス・出産サービス・母子を対象とした産後ケアサービスの全てを必要としている農村部の妊婦は、98.5%以上に及んだ。Grameen Kalyanは、バングラデシュ国の農村部におけるHMI事業を行っているが、この事業サービスを享受するためのHMIカードを持っている人は、農村部人口の僅か1.89%に過ぎない事は、残念ながら注目すべき点である。最も貧しい農村部および準都市部の妊婦のうち80%が妊娠中の妊婦検診サービスを受けていない事、金銭的余裕のある農村部の母親の42%は同サービスを受けていることが判明した。また、農村部および準都市部の妊婦の僅かに6.39%しか、出産の際に病院に入院していない事も判明した.
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、この研究プロジェクトの最終年度である。我々は、バングラデシュ国の農村部における妊婦に関するHMI(Health micro-insurance program)と同じように、一般の人におけるHMIの実態像(知識と活用の実際状況)を把握しつつある。この二年間での研究結果を基に、次年度は、発展途上国における母子保健に対するHMIの成果を設計することに注力する予定である。母子保健の現状は、南アジア、とりわけバングラデシュ国において荒廃している。高い医療費と貧困によって、農村部の女性の大部分は妊娠中の健診やケアを受けることが出来ず、それが高い周産期死亡率や非常に多くの妊娠合併症の背景になっている。我々は、現在の研究がバングラデシュ国における母子保健の効果的なHMIモデルの推進に寄与する事を望んでいる。本研究は、多くの人々から保健サービスが奪われているバングラデシュ国の貧困な農村部(都心部から離れているところ)で行われる予定である。我々は、これらの"見過ごされている人々"を訪ねるきっかけを作り、彼らが積極的な議論に参加する動機づけを促したいと考えている。昨年以来、我々は本研究をバングラデシュ国の貧困な都市部の人々にも拡大しており、益々発展させたいと考えている。
|